不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「おはよう」

 どきん。
 心臓が飛び跳ねた。ただ挨拶されただけなのに。
 うろたえた私は早口に言った。

「おはようございます。私、帰りますね」

 恥ずかしいような落ち着かないような気分で、いたたまれなかったのだ。
 黒瀬さんは片眉を上げた。

「そんなに急いで帰ることもないだろう」

 引き留められたが、私は首を横に振った。

「明日からまた普通に仕事ですよね?」
「あぁ、今度は神野リゾートの基本計画を手伝ってもらいたい」
「だったら、やっぱり家に帰って、洗濯とかしたいです」

 私がそう言ったら、黒瀬さんは納得したようでうなずいた。
 そばに来て、腰を引き寄せると、私の額にキスをした。
 
「そうか。じゃあ、また明日な」

 口端を上げて微笑む顔はいつもと同じはずなのに、正視できないほど格好よく見えてしまう。

(だめだわ。早く帰って落ち着こう)

 私は荷物をまとめて、逃げ帰った。

 家に帰って、掃除や洗濯をしながらも、頭の中は黒瀬さんのことでいっぱいだった。
 
(嫌いだったはずなのに……)

 惹かれてやまない自分がいる。

(抱かれたから? ううん、本当はずっと惹かれていた)

 最初は彼の創り上げる建築に、魅力的なプレゼンに。そして――。 
 パンッと自分の頬を叩いた。

「どっちにしても、仕事中はこんなふやけた顔してちゃだめよね」

 気合いを入れる。公私混同は嫌だ。
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