不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

業務提携

「コク建築設計事務所と業務提携することになった」
「黒瀬さんのところとですか?」
「あぁ。コンペで仕事を取りすぎて手が回らなくなったらしい。なんとも贅沢な話だな。それでうちに手伝ってほしいそうだ」

 たしかに黒瀬さんはめぼしいコンペには片っ端から手を出しているようだった。それで、勝ってしまうのはすごいと思うが、自分の会社の許容量も見極めていないなんてとあきれた。

「もともと彼とうちの社長で話を進めていたんだがね。大学のゼミの先輩後輩の間柄らしい」

 それでは、うちの支援を期待して仕事を取っていたということか。コンペで戦っていたというのに。
 なんだかモヤモヤする。
 そんな私にかまわず、部長は話を続けた。

「そこで、君にご指名だ」
「え、私ですか?」
「そうだ。君もコンペで参加した文が丘の商業施設が実施設計の段になって、それを担当してもらいたいとのことだ」

 その案件は詳細に検討したから、情報は頭に入っている。他の人が一からやるよりは効率はいいだろうが、私は戸惑った。
 そこそこ経験を積んではいるが、個人的な実績は特にない私をわざわざ指名する理由がないのだ。
 異性として狙われてるとは思わなかった。
 私の容姿は男の人からもてはやされるようなものではない。アーモンド形の目に大きめの瞳が特徴的だと言われるぐらいで。
 それに私にちょっかいをかけなくても、黒瀬さんならいくらでも女性が寄ってくる。

(なびかない女をからかってやろうとか?)

 そんな邪推をしてしまう。
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