不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
「明日から彼の事務所に出向して、意匠設計をしてもらいたい」
「えらく急ですね」
「施主の希望で工期が早まったそうだ。だから、よりいっそう手が足りないらしい」

 それならなおさら私よりベテランがもっといるのにという疑問が拭えない。
 とっさに彼のところで働くなんて嫌だと思ってしまう。
 私が気乗りしていないのを感じたようで、部長がなだめるように言ってきた。

「君にとっても勉強になると思うぞ? 一流の建築家について学ぶことのできる機会なんて、そうそうないからな」
「そう……ですよね」

 実際、黒瀬さんの設計自体は好きだし、それを間近で見られるすごいチャンスだと思う。
 でも、私は彼のニヤニヤ笑いを思い浮かべて顔をしかめてしまう。彼を見ていると、なぜか心が乱れるのだ。
 とはいえ、部長の様子から決定事項だと感じて、しぶしぶうなずいた。
 コンペで負けた私たちのチームは一時的に暇だったから、辞令とあらば、受け入れるしかない。
 山田主任もここで同じ案件の構造設計をするそうだ。 

「承知しました」

(まぁ、いいわ。やるからには頑張ろう)
 
 いつまでもモヤモヤしていても仕方ないので、自分を鼓舞する。
 憧れの大型商業施設の設計なのだ。そう思うとテンションが上がる。
 こうして、私は翌日からコク建築設計へと出向することになった。
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