聖女になれなかったので魔法大国へ留学することにしたら、まさかの再会が待っていました

 今にして思えば、知らない国にやって来て、それ以外に居場所を作る手段がなかったからだ。
 ヴァレリアも今のマルティーナと同じように、不安でいっぱいだったことは想像に難くない。

(それなのに、彼女の行動は取り入ろうとしてのことに違いないと、どこまでも邪推してしまったんだ)

 今さら後悔したところでどうなるというものでもないにも拘らず、ヴァレリアの治癒魔法を受けていたら……と考えずにはいられない。

「……殿下?」

 マルティーナがルーカスの顔を覗き込んでいた。

「うわっ、ど、どうかしたか?」
「殿下のほうこそ。突然難しい顔になって黙ってしまいましたが、どうしました?」
「何でもない。ところで、学内では『殿下』ではなく、学友らしく呼んでほしい」

 マルティーナは『あっ』と小さく叫び、口元を手で押さえた。

「ウーゴさんから聞いていました」
「なら、ウーゴのように『ルーカス』と呼んでほしい」
「それは……せめて『ルーカス様』で許してください」
「まだ堅苦しいな。それと敬語も、」
「無理です、勘弁してください!」

 『ひゃあ』と、頭をぶんぶん横に振るマルティーナは可愛い。
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