大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【こんな夜更けに】

日付が変わって、8月6日の深夜1時頃であった。

私は、備後落合駅から国道183号線へ出たあと歩いて米子方面へ向かった。

この時間、国道を走行している自動車は1台もなかった。

国道のわきに街灯が灯っているけど、それでも不気味さを感じた。

やっぱり、引き返した方がいいみたいだ…

そう思っていた時に、私はものすごく恐ろしいものを目の当たりにした。

あれはどこだったかよくおぼえてないけど、たしか庄原市西城町小鳥原にあった国道の待避所だったと思う。

(グー…)

国道を歩いていた私は、腹の虫がなったのでばんごはんを食べていないことに気がついた。

西条駅のキオスクで買った千福のワンカップとカネテツのちくわとごぼ天がまだレジ袋に入ったままであった。

どこかで酒をのもうか…

私はそうおもいながら歩いていた。

私が国道の待避所に着いたのは、たしか深夜2時を少し過ぎた頃だった。

その待避所には、黄色のプッシュホンのコイン式の電話ボックスが1台あった。

私が待避所に到着した時だったが、腹巻き姿のやきそばヘアサングラス男が電話ボックスに入っていたのを目撃した。

あれは溝端屋の番頭《ばんと》はんだ…

どこへ電話しているのだ…

私は、電話ボックスの死角の部分に身をひそめたあと300メートル手前まで接近した。

電話ボックスにて…

黄色の電話機の上に100円玉の山盛りが置かれていた。

番頭《ばんと》はんは、追加の100円玉を投入口に入れながら怒った声で言うた。

「おいコラクソガキ!!よくもわしに言いがかりをつけたな!!ふざけるな!!オドレはなにねぼけたことをいよんぞ(言うてるのだ)!?おいクソガキ!!オレを誰だと思っているのだ!?オレは溝端屋の番頭《ばんと》だが、田嶋組《たじま》の用心棒《ケツモチ》を務めている竹宮豊国だ!!」

ウソ…

番頭《ばんと》はんが…

田嶋組《たじま》のケツモチを務めている…

…って

………………

話を聞いた私は、顔が真っ青になった。

番頭《ばんと》はんは、どこへ電話をかけているのか?

ますますわからなくなった。

番頭《ばんと》はんは、ものすごく怒った声で言うた。

「コラクソガキ!!オドレはセヴァスチャンじいさんのせがれだと言うたな!!…それで、オンドレはわしにどうしろと言うのだ!?…コウセイショウショをどこへ隠しただと…オンドレはええドキョーしてまんな!!…セヴァスチャンじいさんが遺《のこ》したコウセイショウショを隠したと言う証拠はあるのか!?…おいクソガキ!!なんとか言え!!…なんや!!返せだと!!例のやつを返せとはどう言うことだ!?」

例のやつと言えば、イワマツグループとイワマツ家の財産一式のことだ…

受話器ごしにいる相手は、セヴァスチャンじいさんの実のせがれ?…

たっ、たいへんだ…

お、大番頭《おおばんと》はんたちを大急ぎで見つけないと…

だけど…

こわくて動くことができない…

でも…

逃げなきゃ…

この時、私の足もとが半分凍りついて動けなくなった。

番頭《ばんと》はんは、ものすごく恐ろしい声で受話器の向こうにいる相手をイカクした。

「おいクソガキ!!オンドレは例のやつがほしい理由はなんだ!?例のやつがほしいと言うた理由はなんや!?…会社をやめてダッサラして会社をおこしたいからほしいのか!?…だからコウセイショウショをよこせと言うのか!?…コラ甘ったれの世間知らずねクソガキ!!…例のやつがほしい…コウセイショウショを出せと言うのであれば、オンドレが保証人になっている上司《クソジジイ》がこさえた5000万(の借金)を耳そろえて返せよ!!…返せと言うたら返せ!!…アカン!!カネ返すことが先だ!!…上司《クソジジイ》がこさえた借金は部下であるオンドレが払うのがスジだろが!!…キサマはほかにも、借りているカネがぎょーさんあるのだぞ…返すために借りて…そんなことを繰り返していたから借金が雪だるま式にふくらんだと言うことが分からないのか!?…あのな!!オンドレが『もうしばらく待ってくれ〜』『必ず返します〜』『またの機会にしてください〜』と言うて逃げているじゃないか!!…あのな!!その期限は2時間前に切れているのだよ!!わしは、8月5日の深夜11時59分59秒まで5000万を返せとオンドレに言うたのだぞ!!…なんでヤクソクを破ったのだ!?…ふざけるな!!オンドレはわしに対して言いがかりをつけた上に例のやつをよこせとおどしたので、強硬手段に出るぞ!!…オンドレが大事にしているものを壊したくないのであれば、5000万を耳そろえて返せ!!…なんやこの野郎!!…オドレは田嶋組《うちのくみ》にたきつける気だな!!よく分かった…オンドレの大事なものを壊すから覚悟しとけよ!!」

(ガチャーン!!)

思い切りブチ切れた番頭《ばんと》はんは、受話器をガチャーンと置いたあと再び受話器をあげた。

(チャリンチャリンチャリンチャリンチャリンチャリン…カチカチカチ…)

硬貨の投入口に100円玉を大量に入れたあと、プッシュボタンをカチカチと押した。

(プルルルルルルルルル…カチャ…)

電話がつながった。

番頭《ばんと》はんは、受話器の向う側にいる相手に話をした。

「もしもし、二岡総裁《そうさい》でおますか?…竹宮です…藤堂のクソガキが5000万を踏み倒した上に田嶋組《うち》に対して宣戦布告をしたようです…どないしまひょか?…藤堂《クソガキ》が大事にしている婚約者《たからもの》をめちゃくちゃにしまひょや…しあわせいっぱいで順調に行ってると言う時があぶないと言うことを教えないとあきまへんな…とにかく…二岡総裁《そうさい》カタのわかいもん8人前後をきようしまひょか?…へぇ、たのんます。」

たいへんだ…

にげなきゃ…

私は、番頭《ばんと》はんが電話ボックスから出たあと遠く離れたことをカクニンしてから出ることにした。

番頭《ばんと》はんは、それから2分後に電話ボックスから出たあと米子方面へ向かって歩いた。

私は、待避所から出たあと備後落合駅へ引き返した。
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