大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【この空を飛べたら】

(ドカーン!!ドカーン!!ドカーン!!バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチ!!ウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウーウー!!カンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカンカン!!)

時は、10月11日の朝6時半頃であった。

今治市内中心部《しないちゅうしんぶ》にものすごく大きな爆発音と中央消防署から聞こえているけたたましいサイレン音と消防車のサイレン音と常盤地区の消防団の詰め所から聞こえているハンショウの音が響いた。

市《まち》は、壊滅の危機にひんしていた。

…………………………

ところ変わって、常盤町8丁目の交差点にて…

ランスルーのバッグを持っている三永《みえ》さんは、ものすごくつらそうな表情を浮かべながら歩いていた。

三永《みえ》さんの周囲におおぜいの人たちがいた。

おおぜいの人たちは、今治市内中心部《しないちゅうしんぶ》から逃げてきた。

その中に、焼けただれた状態になっていた人が50人前後いた。

そのまた上に、血まみれになっていた人たちが20人ほどいた。

避難する途中で親御《おや》とはぐれた子どもたち…

避難する途中でわが子をなくしたシングルマザーたち…

夫が行方不明になった母子たち…

…………………………

ほかにもまだたくさんいた。

…………………………

交差点の信号機が大規模停電が発生した関係で消えていた。

県道山路桜井線は、沿線の地域が危険な状態におちいったので立ち入り禁止のバリケードがはられていた。

このため、避難経路は国道317号線から玉川町にある複数の県道に設定されていた。

三永《みえ》さんは、国道317号線から県道鈍川大井停車場線〜県道東予玉川線を通って東予市方面へ向かう方を選んだ。

………………………

それから8時間後であった。

またところ変わって、朝倉ダムの奥にある黒谷《くろのたに》の集落にて…

集落の道路に避難してきたおおぜいの人たちが歩いていた。

ランスルーのバッグを持っている三永《みえ》さんは、みんなと一緒に歩いて森林へ向かった。

集落にある集会所にエイドステーションが設けられていた。

エイドステーションには、朝倉村《むら》の役場の職員たちと東予市の市役所の職員たちと集落で暮らしている住民たちがいた。

エイドステーションにいる人たちは、役場の職員たちと市役所の職員たちから飲みものやおむすびを受け取るなどの支援を受けていた。

三永《みえ》さんは、エイドステーションを通過したあと森林へ向かった。

………………………

またところ変わって、林道にて…

ランスルーのバッグを持っている三永《みえ》さんは、ものすごくつらい表情を浮かべていた。

三永《みえ》さんのまわりにいる人たちに異常事態が発生した。

この時、母親と小学校4年生と1年生の男の子の母子3人に異常事態が発生した。

小学校1年生の男の子が激しい声をあげながら泣いていた。

「ワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーン!!」
「うるさいわねもう!!」
「ワーン!!ガッコーに行きたい!!」
「ガッコーに行きたいと言うても行くことができなくなったのよ!!」
「ワーンワーン!!ガッコーに行きたい!!」
「今の状態では行くことができないのよ!!」
「ワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーンワーン!!」
「うるさいわね!!」

そのまた上に、異常事態が発生した。

今治市内中心部《しないちゅうしんぶ》から避難してきた50代後半の男性が背中に背負っていた99歳の母親から『ここで降ろして…』と弱々しい声で言われた。

男性は、ものすごく泣きそうな表情で言うた。

「かあさん!!なにを言うのだよ!!」
「(息子の名前)、かあさんはここで死にたい…」
「そんなリフジンなことはできないよ!!」
「わたしがいたら足手まといになるだけよ〜」
「かあさんを置いて行くことはできないよ!!」
「かあさんは、戦死した(長男)のもとへ行きたいの…」
「そんなことはできないよ!!」

つらい…

非常につらい…

三永《みえ》さんは、思わず泣きそうになった。

この時であった。

100歳の老婆と68歳の夫婦と30代と20代の息子夫婦と小さい子どもたち2人のあわせて7人家族に異常事態が生じた。

68歳の長男が100歳の老婆をがけから突き落とした。

100歳の老婆は、右足を骨折したことによって寝たきりになっていた。

小さい子どもたちが泣き叫びながら『なんでひいおばあちゃんを突き落としたの!?』と言うた。

20代の孫の嫁は、あつかましい声で小さい子どもたちに『ひいおばあちゃんを連れて行くことができなくなったのよ!!』と答えた。

このほかにも、異常事態が発生した。

4歳と2歳の男の子を連れていた40代のシングルマザーが大病で倒れたあと息を引き取った。

男の子ふたりが『ママ!!』と叫びながら泣いていた。

高校1年生の女の子が『コーコーに行きたい〜』と言いながらぐすんぐすんと泣いていた…

両親によって置き去りにされた幼子たちもいた…

ひどい場合には、森林の中で命を絶った人たちもいた…

耐えられない…

もうイヤだ…

……………………

それからまた1時間後であった。

ランスルーのバッグを持っている三永《みえ》さんは、やっとの思いで林道から出ることができた。

その後、県道東予玉川線を歩いて東予市方面へ向かった。

時は、夕方4時55分頃であった。

またところ変わって、県道沿いにあるフレンズ(スーパーマーケット)の前にて…

店の敷地にエイドステーションが設けられていた。

ランスルーのバッグを持っている三永《みえ》さんは、桟敷に座っていた。

店の人は、三永《みえ》さんに対してふくろ入りのパスコのあんぱんとクリームパンとジョージアの缶コーヒーを渡した。

うつろな表情を浮かべている三永《みえ》さんは、夕暮れ時の空を見つめながら中島みゆきさんが作詞作曲した曲で加藤登紀子さんが歌っていた『この空を飛べたら』を歌った。

つらい…

悲しい…

もうイヤだ…

…………………

大好きだった実母《はは》がいる天国に行きたい…

……………………

三永《みえ》さんは、ひと通り歌を歌ったあと震える声で泣いた。

……………………

それからまた15日後の10月26日頃であった。

またところ変わって、名古屋栄にある矢場公園にて…

時は、午後1時過ぎであった。

三永《みえ》さんは、女子大時代の友人と一緒にベンチに座っていた。

友人は、三永《みえ》さんに対してこう言うた。

「三永《みえ》ちゃんはだいぶつらい想いをしたよね…たいへんだったわね〜」
「たいへんどころか、地獄だったわよ…行くところがない…帰るところもない…家族がいないからもっとつらい。」
「三永《みえ》ちゃんはここに来るまでのあいだどこにいたのよ?」
「ちょいの間で働いていた姐《ねえ》さんが暮らしている和歌山にいたわよ。」
「和歌山にいたのね…三永《みえ》ちゃんはこれから先どうするのよ?」
「働きたいと言うても、フーゾクかパチンコぐらいしかないのにどうしろと言うのよ…どうすることもできないわよ!!」
「そうよね…三永《みえ》ちゃん…岐阜に新しくオープンした店に行くのはどう?」
「岐阜。」
「うん…ソープランド…だけど…大丈夫?」
「行く…お願い…たのんでちょうだい。」
「いいわよ。」

三永《みえ》さんは、友人に対して岐阜のソープランドで働くことを伝えたあとすぐに出発した。

友人は、つらそうな表情を浮かべながら三永《みえ》さんを見送った。
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