大河ドラマ・乳房星(たらちねぼし)

【父さん、あのね。】

時は、8月27日の午後1時頃であった。

またところ変わって、垂水市中央町にある徳田さんの家にて…

家の大広間に置かれている仏壇の前に私が座っていた。

仏壇に白黒写真を供えられていた。

仏壇に供えられている白黒写真に写っている女性は、徳田さんの娘さんであった。

(チーン…)

私は、仏壇に置かれているかねを鳴らしたあと手を合わせて静かに祈りをささげた。

………………………

それからまた20分後であった。

またところ変わって、家の大広間にて…

テーブルの上には、ゼブラシャーボーの本体とメモパッドが置かれていた。

徳田さんの奥さまと私は、向かい合った状態で座っていた。

私は、徳田さんの奥さまに対して声をかけた。

「徳田さんの娘さんは、14年前に山梨県《やまなし》で発生した強姦殺人事件でお亡くなりになりましたが…娘さんは…事件が発生した日は…どちらにいらっしゃったのですか?」
「娘はその時…都留市《つる》で暮らしている友人の家に遊びに行ってました。」
「その時に、被害に遭われたのですね。」
「ええ。」

それから30秒後であった。

徳田さんの奥さまは、私に対して声をかけた。

「コリントさま。」
「奥さま。」
「主人とは…連絡が取れましたか?」
「いえ…まだです。」
「そうですか。」

それからまた20秒後に奥さまが私に対して声をかけた。

「コリントさま。」
「はい。」
「コリントさまだけにお話をいたしますが…14年前に山梨県《やまなし》で発生した連続強姦殺人事件についてですが…あとになって…都留市《つる》で発生した事件の被害に遭った女性が違う人であったことが分かりました…すみませんでした。」
「奥さま…それじゃあ娘さんはどこで被害に遭われたのですか!?」

私の問いに対して、奥さまはものすごくつらい表情で答えた。

「都留市《つる》で最初の事件が発生した日の3ヶ月ほど前でした…娘が強姦殺人の被害に遭ったのはその日だったのです。」
「…ってことは、昭和44年の8月だったと言うことですね。」
「もうしわけございませんでした。」
「奥さま。」
「ほんとうにすみませんでした。」

私は、奥さまが顔をあげたあと再び声をかけた。

「あの…奥さまにおうかがいしますが…娘さんが都留市《つる》で暮らしている友人方へ行った日は、8月何日でしたか?」
「たしか…8月26日でした。」

私は、ゼブラシャーボーのシャープペンシルを使ってメモパッドに『8月26日』と記載したあと奥さまに声をかけた。

「奥さま、都留市《つる》で暮らしている友人の方はどんな人でしたか?」
「中学卒業までクラスが一緒だった仲良しの女性です…中学卒業後に親御《おや》が東京へテンキンになったので…引っ越しをしました。」
「その関係で…高校は都内に行かれたのですね。」
「はい…都留市《つる》は…ご友人の方が進学した女子大があります。」
「ご友人の方は、都留市《げんち》にある女子大に通われていたのですね。」
「はい。」
「分かりました…あの…娘さんが都留市《げんち》で暮らしているご友人の家に行かれたあとのことでおたずねしたいのですがよろしいでしょうか?」

私の問いに対して、奥さまは『思い出したわ〜』と言うたあとこう答えた。

「娘は、都留市《つる》で暮らしている友人と一緒に高尾山へ行くと言ってました…コリントさま!!…娘は…昭和44年8月27日に友人と一緒に高尾山へピクニックに行ったのです!!」

私は『昭和44年8月27日に高尾山へピクニックに行った…』と言いながらメモ書きをしたあと奥さまに声をかけた。

「…と言うことは…徳田さんの娘さんは、都留市《つるし》ではなく高尾山で被害に遭われた…と言うことですね!!」
「はい。」
「一緒にいたご友人の方はどうなったのですか!?」
「娘が『逃げて!!』と叫んだので…」
「ご友人の方は逃げられたのですね。」
「はい。」

徳田さんの奥さまは、震える声で泣きながら私に言うた。

「主人は…『小久里《おぐり》をハイセキしてやる!!』と繰り返して言ってました…うううううううううう…」
「奥さま…奥さま。」
「はい。」
「あの…徳田さんの娘さんを殺した男が小久里《おぐり》であることを知ったのはいつ頃ですか!?」
「おぼえてません…ですが…『小久里《おぐり》が近いうちに出所《でる》』と聞いた時に…すごくいかり狂っていました。」
「………………………。」
「主人は、娘のかたきをとるために家出したのです。」
「奥さま。」

徳田さんの奥さまは、ぐすんぐすんと泣きながら私に言うた。

「コリントさま…これも今になって分かった話でございますが…主人が16年前にシブシで発生した暴力団同士による抗争事件で…事件とは関係のない事務所《そしき》の若頭補佐を誤認逮捕していたことが分かったのです。」
「徳田さんが…ゴニンタイホ…奥さま!!」
「ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…ぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすんぐすん…」

奥さまは、私の前でぐすんぐすんと泣きつづけた。

私は、なにも言うことができずにコンワクした。

……………………………

(ボーッ、ボーッ…)

それからまた2時間であった。

私は、鴨池桟橋行《かもいけい》きのフェリーに乗って再び旅に出た私は

船室にいる私は、錦江湾《うみ》に浮ぶ桜島をながめながら考えごとをしていた。

次から次へと事実が変わっているが…

どれがほんとうなのか分からない…

どう対処すればいいのだよ…

…………………………
< 886 / 900 >

この作品をシェア

pagetop