初恋の糸は誰に繋がっていますか?
「君、何しているんだ?」
「わぁっ!」
私は身体をぎゅっとさせて、突然の声に思わず目を閉じる。
そしてそろりとあけると、目の前に立っていたのは鞄を持ったスーツ姿の森山常務だった。
「森山、常務」
私は安心から思わず前のめりで息を吐く。
ビクビクしているのに考え込んでいたせいで、声をかけられるまで人が近づいてきた事がわからないほど無防備になっていたなんて。
「こんな時間に何をしているんだ?」
「ここ、私の家の最寄り駅でして」
「誰か待っているのか?」
「あの、いいえ」
歯切れが悪く言うと、鋭い目がより鋭くなった気がした。
「用事も無くここに立っていると言うのか?」
「森山常務こそ何故こんな場所に?」
「友人の家に用事があって、これから帰るところだ。
それで君はどうしてここに立っているんだ?
家に帰れない理由でもあるのか?」
「まさか!ちょうどこれから帰る所なんです」
「一人で?」
「はい」
「なら君の家まで送ろう」
え、と思わず声を出すと、周囲の人がちらちら見ていることに気付いてオロオロしてしまう。
思ったより私の声が大きかったのか、それとも女性に声をかける不審者だと常務を思わせてしまっていたら大変だ。