初恋の糸は誰に繋がっていますか?
やっと見えた我が家の周囲に、誰かいないか再度視線を動かす。
どうやら見える範囲では誰もいないようだ。
簡素な二階建てアパートの前で立ち止まり家はここですと言うと、常務はアパートをゆっくりと見回してから私に視線を下げた。
「送っていただきありがとうございました」
「部屋は二階なのか?」
「いえ一階の角部屋で」
「このマンションの入り口にオートロックは無いようだな。
建物の裏へ行ける、鍵の無い入り口まである」
安全では無いアパートと言われているのはわかる。
だけど家賃が相場より安かったのです、それなりの広さで窓も多くて明るいし。
などと本心を言う訳にもいかず、私は心配させないように笑顔を見せた。
「大丈夫です、戸締まりはしっかりしていますので」
森山常務は黙って私を見ていたが、
「悪いが玄関まで付き合う」
ここまで心配性な人だったのか。
いや、不用心な社員をここまで心配してくれる、正義感のある人なんだ、
私なんぞにここまでしてくれる常務の優しさが、不謹慎ながら嬉しい。
そもそもさっきのことがあるから玄関前にいたらどうしようと少々怖かった部分はあった。
それを悟られないようにして、一緒に廊下を歩く。
廊下を通り玄関に着くと、常務に頭を下げて礼を言う。