俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜

翔side

翔side
 翌日、俺は初めて絆音を本気で怒らせてしまった事に気がつく。
 結婚式が二週間後に迫っているにも関わらず、だ。
 昨夜は酔っていたせいもあるが、つい嫉妬心が爆発してしまい帰宅後すぐにワンピースを脱がせた。そして、雑に廊下に放ったままにしてしまったのだ。
 ワンピースを拾い上げ「しわになっちゃった...」と悲しそうに呟く絆音。
 自身の最低な行いに気がつき慌てて謝罪したが、彼女の表情が変わる事はなかった。
 「...本当に悪かった、クリーニングしてもらおう」
 そう手を伸ばしたけれど、ワンピースをぎゅっと抱えて離そうとしない。
 「...自分で出します。大切な物なので」
 そう言って立ち上がると、スタスタと自室へと入って行きバタンとドアを閉める。
 やってしまった...最低だな、俺は...

 それから、一週間ほどまともに目も合わせず口も聞いてくれない状態が続いた。
 それでも今まで通りに食事を用意してくれ、仕事もきちんとこなしているが業務連絡以外に会話はない。
 その上、普段なら絆音が持ってくる書類や確認事項もこの数日はほとんど高峰が代行している。
 今日も代わりにコーヒーを待ってきた高峰に「雪原はどうした?」と聞けば「ゆ、雪原さんは、手が離せないようで...」とあからさまに動揺し適当な答えが返ってきた。
 俺のせいとはいえ、ここまで避けられるとは...
 絆音と仲直りするにはどうしたら...
 結婚式も迫っているし何とかしないと...そう思いながらも、トラブルがあり最近は残業続きで俺が帰宅すると絆音はもう寝ている。
 そして、今日こそはきちんと話をしようと二十二時半頃に帰宅すると、リビングに明かりがついていた。
 今日はまだ起きてるなと嬉しくなり足早にドアを開ければ...
 「あ、兄さんおかえりー。遅かったね」とソファで寛ぎながらワインを飲んでいる類と、ふいっと顔を背け「...お帰りなさい」と小さい声で呟く絆音。
 「...は?なんで類が居るんだよ...」
 「別に兄さんの留守を狙った訳じゃないよ?俺は絆音ちゃんに呼ばれたから来ただけ」
 「一緒にゲームがしたかったから来てもらったんです。ダメですか?」と強気な瞳で唇を尖らせている彼女は珍しく酔っているようだ。
 テーブルを見れば、フルボトルのワインが三本と甘そうなリキュールの瓶まで並んでいる...
 「お前ら飲み過ぎだろ...もうやめとけ」
 「兄さんには関係ないでしょー、思い切り飲みたい時だってあるよねー?」
 「「ねー?」」と声を揃えニコニコ見つめ合う酔っ払いの二人。
 「はぁー。類も店オープンしたばかりで忙しいだろ?もう帰れよ」
 「せっかく来てくれたのに帰れなんてひどいです!」
 「そうだよねー?俺はずっと絆音ちゃんの味方だから!いつでも呼んでくれたらすぐ来るからね?うちの服もいくらでもプレゼントするし」
 「ふふっ、ありがとう。でもお洋服はちゃんと買わせてね?」
 「そうだ、今考えてるデザイン聞いてくれる?まだ途中なんだけど...」とすっかり二人の世界で話し始めてしまった。
 これも元はと言えば俺のせいなので仕方ないと諦め自室へ入り、しばらくするとリビングが静かになった。
 類が帰ったのかと覗けば、ソファで眠っている絆音に類がブランケットをかけている。
 「酔い潰れて寝ちゃったのか...」
 「兄さんさ、なんで絆音ちゃんがこんなに怒ってるかちゃんとわかってる?」
 「...ワンピースだろ?」
 「しわになったからじゃないよ?自分にとって大切な物を雑に扱われたのがすごくショックだったんだよ?まぁ、今回は俺にも責任の一端がある気がするから教えてあげたけど、ちゃんと謝って早く仲直りしてよ?じゃあおやすみー」
 類を見送ってから、ぐっすり眠って起きる気配のない絆音をベッドまで運んだ。
 最近はいつも背を向けられていたから、こんな無防備な寝顔を見るのも久しぶりかもしれない。
 彼女が起きないのをいいことに、久しぶりに思いきり抱きしめて眠った。

 腕の中でもぞもぞと動いているのを感じ目を開ければ、絆音も起きたようで「あれ...なんで...?」と困惑の声を漏らしている。
 俺から離れようとしてるのを感じてぎゅっと引き戻し髪を撫でた。
 「絆音、ごめんな。絆音の大切な物を俺が大事にしなかったから悲しかったんだよな?」
 「...はい」
 「あの時は...パーティー中何度もモデルと間違われ声をかけられたりスカウトされたり、綺麗な姿をたくさんの知らない人達の目に晒されているのが耐えられなかったんだ。それに、類との事も...大人気なく嫉妬して早く絆音を独り占めしたくて...」
 「翔さん...」
 「絆音にとっては宝物だったのに...本当にごめん。絆音の事となると今でも冷静でいられなくなるんだ、反省してる」
 「私も、ごめんなさい...。意地を張ってしまって...。でもやっぱり一人で眠るのは寒くて、その、ぎゅってして欲しいです...」
 「絆音...俺はやっぱりお前がいないとダメなんだ。だから秘書としても今まで通り頼むよ」
 「...?仕事には私情を持ち込んだりしていません」
 「でも仕事中も俺の事避けてただろ?資料とかコーヒーとか高峰が持ってきていたし」
 「あれは私の意思ではないですよ?山内さんの指示です。今後高峰さんに副社長のアシスタント業務を任せるからって」
 「...は?俺は聞いてない」
 「え?でも山内さんがそう言っていて...」
 ...確かに考えてみれば、真面目な絆音が仕事に私情をはさむとは思えない。
 俺はまだまだ彼女の事を理解できていなかったな...
 とにかくやっと仲直り出来た事に安心し、しばらく絆音を抱きしめたまま二人で微睡んでいた。
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