俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜

翔side

翔side
 数日前から憂鬱だったパーティーも終盤に差しかかり、雪原のおかげもありしつこい見合いの申し入れは受けずに済んだと安堵していた時...
 少し前から会場の外が少し騒がしいことには気づいていたが、何かあったのか?と思っていた所に山内が血相を変え駆け寄ってきた。
 取引先の重役と話をしていた俺に近寄り小声で伝えられた言葉は、すぐには理解が出来なかった。
 「雪原さんが階段から転落しました」
 「...は?」
 「まもなく救急車が到着するそうなので副社長にもお伝えしておこうと...」
 山内の言葉を頭が理解してきた時には走り出していた。
 会場を出ると奥の階段の辺りに人だかりが出来ていて、それをかき分けて行くと踊り場にぐったりと横たわっているドレスをきた女性と、そばにはスーツを着た男性が見えた。
 追いかけてきた山内の制止を振り切り駆け寄ると、青白い顔で額から血を流しそれを抑えている男性のハンカチや手も赤く染まっている。
 「おい!しっかりしろ!雪原!」
 「ダメです、頭を打っているようなので身体を動かさないで下さい」
 思わず彼女の肩を掴みそうになった俺を止めたその男性は、偶然居合わせた医師だと山内が説明していたがその時の俺には聞こえていなかった。
 「どうして、こんな事に...」
 目の前の姿に頭が追いつかず呆然としていると、バタバタと騒がしい足音が近づいてきて救急隊員が彼女をゆっくりと担架に乗せる。
 「俺が付き添います。山内、悪いが後は頼んだ」
 「分かりました、社長には私からお伝えしておきます」  
 そのまますぐに救急車へ乗り込み、意識のない絆音に酸素マスクや点滴など付けられていく姿をぼんやりと眺めていた。
 搬送先は本当なら伯父さんの病院がよかったのだろうが、ホテルからは距離がある。ここから遠くはなく受け入れ可能だと決まった搬送先は香月総合病院だった。

 救急車の中で彼女について様々な事を聞かれたが、名前と生年月日くらいしかわからなかった。
 子どもの頃から色々と知っているつもりでいたが、俺は絆音の事を何も知らなかったのだと改めて気付かされた。
 そして、病院に到着するとすぐに救命センターの中へと運ばれていき、俺はただそれを見送り無事を祈って待つことしか出来ない。
 俺が守るって約束したのに...どうしてこんな事に...
 自分の不甲斐なさと無力さに何も考えられず、何度も振動しているスマホにも気づいていなかった。

 それからどれくらい経ったか分からないが、救命センターの扉が開き紺色のスクラブを着た男性が二人出てきた。
 「翔...?なんでここに...?」
 「柊哉... そうか、ここはお前のとこの病院だったのか...」
 「もしかして、さっき運ばれてきた女性の付き添い?」
 「彼女の容体は?無事なのか?」
 縋る思いで親友の腕を掴めば「大丈夫だから落ち着け。ちゃんと説明するから」と絆音が運ばれた個室に案内された。
 額や腕、脚などあちこちに包帯が巻かれあまりに痛々しい姿に、言葉が出ない。
 「右脚の骨折、全身の打撲があり額の切り傷は縫合処置をしました。頭を打っているようなのでCT検査もしましたが、今の所異常はありません」
 一通りの説明を終え救命医の先生が部屋を出ていくと、柊哉が俺をベッドサイドの椅子に座らせる。
 「さっきの説明の通り検査結果は今の所問題ないけど、頭を強く打っている場合後から症状が出る可能性もあるんだ。目が覚めてみないと分からないけど数日は絶対安静、骨折もあるししばらくは入院になると思うよ」
 「...そうか」
 「この子、晴臣の従兄妹、だよな...?」
 「...お前も知っているんだな。妹じゃなく従兄妹だってこと」
 「大学の頃よく晴臣の家で一緒に勉強していたから。その時に何度か会ったんだよ。階段から落ちたって聞いたけど、何があった?」
 「...分からない。絆音は、去年から俺の秘書なんだ。今夜は、うちの会社のパーティーがあって、その途中で躓いて足を捻って...。でも大丈夫だから最後まで居させてくれって、その後も嬉しそうにケーキ食ってたし元気そうだった...なのに...。エントランスに降りようとしたんだろうな。その時に階段から...」
 「...事故ってこと?そばに人はいなかったのか?」
 「分からない。別の秘書に彼女が階段から落ちたと聞いて駆けつけた時には人だかりができてたけど、倒れている絆音の事しか見てなかったしその秘書が何か言ってたが覚えてない」
 「...そうか。とりあえず電話に出た方がいいんじゃないか?」
 「...ああ、悪い」

 廊下に出てスマホを見ると、何十件もの着信が入っていた。とりあえず父さんと山内に現状を報告し、絆音の伯母さんに電話をかけた。
 しばらくして俺の両親と山内が来て、絆音のバッグを届けてくれた。あの後、多少騒ぎにはなったそうだが無事にパーティーは終わったらしい。
 三人とも彼女の姿に言葉を失い、母さんは涙を流していたが今は早く目を覚ましてくれることを祈る事しか出来ない。
 そして、その三人と入れ違いに来た伯父さんと伯母さんはすぐに彼女に駆け寄り、まだ赤いあざが残る頬をそっと撫でる。
 「絆音ちゃん...どうして...こんな姿に...」
 「翔くん、付き添っていてくれてありがとう。後は私達が付いているから、もう遅いし君も帰って休んだ方がいい」
 「...いえ、目が覚めるまで彼女のそばに居させて下さい。俺がついていたのに、こんな事になってしまって...本当に申し訳ありません」
 「翔くんのせいじゃないわ。誰のせいでも、ないのよね...?」
 「...俺にも、詳しいことは分からないんです。階段から落ちたということしか...」
 「いつ目が覚めるかもわからないし、翔くんも仕事があるだろう?しばらく絆音ちゃんは休む事になるだろうけど...。とにかく一度帰りなさい、目が覚めたら必ず連絡するから」
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