俺様副社長の溺愛注意報 〜秘書ときどき幼馴染のち妻〜
翔side
 時計を見るとすでに深夜の一時を回っていた。
 明日、いや今日ももちろん仕事がある。俺は出社して彼女の分まで働かなければいけない事はわかっているが...どうしても絆音のそばについていたい。
 きっと目を覚まし病院にいる事がわかったら、しばらく入院しなければいけない事を知ったらパニックになるんじゃないかと思うから。
 その時に手を握って頭を撫でて大丈夫だと安心させてやりたい...
 しかし、二人にそう言えるはずもなく「彼女の着替えや荷物を取ってきます」とだけ告げて病室を出た。
 きっと朝までは二人がついているだろうから、その間に俺は出来る限りの事をしよう。
 マンションへ帰り、絆音の部屋でパジャマや普段使っている物をカバンに詰めた。シャワーを浴び、仕事を少しでも片付けようとパソコンを開く。
 会議などはスケジュールを変更してもらうとして、今日中にやらなければいけない仕事を集中して終わらせていった。

 気づけば外は朝日が昇り始め、カーテンを閉めていなかった部屋は少しずつ明るくなっていく。
 水を取ろうと冷蔵庫を開ければ、中には昨日絆音が作ってくれた朝ごはんの残りが入っていた。
 そういえば、パーティー中も忙しくアルコールばかりで昨日の昼からほとんど何も食べていなかった。
 ラップに包まれたおにぎりを一口食べると、昨日の朝笑顔で「おはようございます、ちょっと時間がないのでこれとお味噌汁でいいですか?」とおにぎりを握っていた絆音の姿が鮮明に思い出される。
 あんなに元気だったのに...一瞬の出来事でこんな事になってしまうなんて...
 階段の踊り場に青白い顔で血を流してぐったりと倒れていた姿が頭に浮かび、ゾッと寒気がした。
 明るくなった部屋で一人おにぎりを食べていると静寂に包まれ、まるで色も音もこの世からなくなってしまったよう。

 この二ヶ月ほど絆音と暮らしてきて、朝起きれば「おはよう」という相手がいていい匂いをさせながらご飯を作ってくれて、二人で向かい合って食事をする日々が当たり前のようになってきていた。
 毎日仕事をしているのにきちんとご飯を作ってくれて、週末には一緒に片付けや掃除をして、時々一緒に映画を見て、たまに一緒に買い物に行って...。
 可愛らしいエプロンをして楽しそうに料理をしている姿、俺が美味しいと言うとホッとしたようにふわっと笑う顔、お風呂上がりの無防備な姿、歯磨きをしながら眠そうに目をこする子供のような顔も...全てが失われてしまったような喪失感に襲われる。
 この日常は決して当たり前ではなかったのだと、失ってから初めて気づかされた。絆音と暮らした日々は、俺にとっては特別なものだったのだと...
 そう思うと無性に絆音に会いたくなり、急いで荷物を持って病院へ向かった。
 道中で山内に連絡し、今日は出社しないと伝えると「スケジュールは私がなんとかします」と力強く答えてくれた。
 「悪いな、雪原の分も忙しいのに」
 「あの...実は雪原さんの件で少し気になる話を聞いたんです。パーティーが終わった後、一人のホテル従業員が彼女が急いで階段の方へ走っていく姿を見たと言っていて。そのまま目で追っていると、彼女の姿と入れ違いで別の女性が階段の方から慌てた様子で走って来てすれ違ったあとすぐに、階段で人が倒れていると騒ぎになったと...」
 「...事故じゃなかったと、いうのか...?」
 「まだ分かりません。その従業員がすれ違った女性の特徴を聞くと、それと合致する人物がいたので、今日話を聞こうと思っています」
 俺はてっきり、捻った足首の痛みと履き慣れない靴で急いだせいで転んでしまったのかと思っていた。
 もしもあれが事故ではなく、誰かに突き落とされたのだとしたら...
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