あの放課後、先生と初恋。
「────────、」
悔いはないくらい、出しきった。
もしこれでメンバーになれなくとも、わたしはこの3年間を楽しかったと笑えるだろう。
こんなにも吹けるようになった。
こんなにも、自分に満足している。
綾部先生の顔を見ても、同じことを思える。
「………辞退、します」
手を挙げた存在に、まさかとリーダーたちが振り返る。
トロンボーンを持っているのがわたしだということに、全員が驚いているようだった。
部長の心菜は今にも泣きそうだ。
「たぶん俺には超せません。完敗です、さすがに」
「…本当にいいのか、名波」
「はい。俺は今の音を目指して……来年、頑張りますよ」
わたしに譲ったんじゃない。
震えている声は本気で悔しがってもいた。
真剣勝負で勝ったんだ、わたしは名波 玲音に。
「───わかった。じゃあ皆木、全国大会のメンバーは君で決定だ。…ふ、僕はやっと切り札を出すことができる」
最初に崩れるような涙を見せたのは、心菜。
いつかコンクールで一緒に吹こう───彼女の夢もまた、叶った瞬間だった。
この空き教室はサッカー場にいちばん近い。
応援しつづけてくれた2人に、わたしの音はきっと届いた。
届いたんだ、やっと。