性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
第一章【憑かれた私】
夏が終わりを告げる。気づけば、あれだけ賑やかに鳴いていたセミ達はその短い生涯に幕を閉じ物悲しい静けさだけが町中を包んだ。季節はあっという間に秋へと移り変わり、金木犀の甘い香りがほのかに漂ってくる。
南雲類《なぐも るい》はふと、眼下に広がる黒い闇を見つめていた。
気分が重いー。
上手く説明はできない。
しかし、何故かいつも地を這うような重たい感覚に、衝動的にエネルギーを浪費する。
理由は分からない。
どうしてか、いつも周囲にいる人間達にエネルギーを吸い取られ、気づけば何をした訳でもないのに疲れ果ててしまうのだ。
類は自身を落ち着かせるために、小さく深呼吸をする。
ここはとある高層ビルの非常階段部。普段は誰も通らない閑散としたその場所は、いつでも自殺志願者を歓迎するように普段から鍵が開け放たれている。
類は虚な表情で、手すりに足をかける。秋特有の物寂しい空気がふんわりと類の身体を包み込む。
地上12階部分に位置するこの場所はつい先日も人が飛び降りたばかりだという。それなのに、何故かここはいつも鍵が開いている。
そう。
何故か、開いているのだ。
いつも、
いつも。
類は再び眼下の暗闇を見つめる。ビルの間を吹き抜ける風が先程からピューピューと唸り声をあげ、今か、今かと類が暗闇へと飛び込むのを待っている。
「覚《サトリ》…」
ふと、類が誰かの名前を呟く。
すると類の傍に、一人の男が姿を現した。
「どうした?類」
男は美しい銀色の髪を靡かせ、白い強装束《こわしょうぞく》を身に纏っている。
「本当にいいの…?」
類は恐る恐る覚の綺麗な金色の瞳を見つめる。
「あぁ、いいんだよ。もう疲れたろ?さっさと黄泉の国へと旅立とう」
覚はそういうと、優しい手つきで類の頬を撫でる。
「黄泉の国…、そこにいけば本当に…お父さんとお母さんに会えるんだよね?」
類は少し震えた声で覚に尋ねる。
「あぁ、会えるよ」
覚は答える。
「優しい人しかいないんだよね?」
「あぁ、そうだよ。君を傷つける者は誰も居ない」
「この重たい気分からも解放されるんだよね?」
「そうだね。あちらの世界は気分がいい」
「もう、苦しむ事はないんだよね?」
「もちろん。あちらの世界に苦しみは存在しない」
覚は類の耳元でそう呟くと、類を急かすように肩へと手を添える。
「さぁ、早く逝こう。私が憑いている…」
覚の言葉に呼応するように、再びビルの底から勢いよく突風が吹き上げる。それを合図に、類はゆっくりと手すりから足を離そうとした。
その時だった……。
「何してんの」
覚ではない、よく響く男の声がその場に響き渡った。
南雲類《なぐも るい》はふと、眼下に広がる黒い闇を見つめていた。
気分が重いー。
上手く説明はできない。
しかし、何故かいつも地を這うような重たい感覚に、衝動的にエネルギーを浪費する。
理由は分からない。
どうしてか、いつも周囲にいる人間達にエネルギーを吸い取られ、気づけば何をした訳でもないのに疲れ果ててしまうのだ。
類は自身を落ち着かせるために、小さく深呼吸をする。
ここはとある高層ビルの非常階段部。普段は誰も通らない閑散としたその場所は、いつでも自殺志願者を歓迎するように普段から鍵が開け放たれている。
類は虚な表情で、手すりに足をかける。秋特有の物寂しい空気がふんわりと類の身体を包み込む。
地上12階部分に位置するこの場所はつい先日も人が飛び降りたばかりだという。それなのに、何故かここはいつも鍵が開いている。
そう。
何故か、開いているのだ。
いつも、
いつも。
類は再び眼下の暗闇を見つめる。ビルの間を吹き抜ける風が先程からピューピューと唸り声をあげ、今か、今かと類が暗闇へと飛び込むのを待っている。
「覚《サトリ》…」
ふと、類が誰かの名前を呟く。
すると類の傍に、一人の男が姿を現した。
「どうした?類」
男は美しい銀色の髪を靡かせ、白い強装束《こわしょうぞく》を身に纏っている。
「本当にいいの…?」
類は恐る恐る覚の綺麗な金色の瞳を見つめる。
「あぁ、いいんだよ。もう疲れたろ?さっさと黄泉の国へと旅立とう」
覚はそういうと、優しい手つきで類の頬を撫でる。
「黄泉の国…、そこにいけば本当に…お父さんとお母さんに会えるんだよね?」
類は少し震えた声で覚に尋ねる。
「あぁ、会えるよ」
覚は答える。
「優しい人しかいないんだよね?」
「あぁ、そうだよ。君を傷つける者は誰も居ない」
「この重たい気分からも解放されるんだよね?」
「そうだね。あちらの世界は気分がいい」
「もう、苦しむ事はないんだよね?」
「もちろん。あちらの世界に苦しみは存在しない」
覚は類の耳元でそう呟くと、類を急かすように肩へと手を添える。
「さぁ、早く逝こう。私が憑いている…」
覚の言葉に呼応するように、再びビルの底から勢いよく突風が吹き上げる。それを合図に、類はゆっくりと手すりから足を離そうとした。
その時だった……。
「何してんの」
覚ではない、よく響く男の声がその場に響き渡った。
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