性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
【性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く】
 「御託はいいから、さっさとしな!」

 早朝。陰陽師協会事務室に罵声が響き渡る。

 「で、ですから…、もう少々お待ちを…」

 檜森は朝っぱらから、いい迷惑だと思いながらもその老女に紅茶を差し出す。

 ことの発端は数時間前。

 眠気眼に事務所へと出勤してきた檜森は物凄い形相の老女とエンカウントした。

 老女は陰陽師協会でも有名な女で、人は皆彼女の事を巡り合わせババァと呼ぶ。

 「ったく!、せっかく人を斡旋してやったのに…。突然のキャンセルとはどういうことだい?!」

 「お、落ち着いて下さい。一体何事ですか?」

 檜森は痛む頭を抑えながら努めて冷静に尋ねる。

 「私はここに金を請求しにきたのさ!」

 「金?、また何で事務所に…」

 檜森はハンカチで汗を拭いながら尋ねる。すると、老女は一枚の紙切れを応接室の机の上に置いた。

 「これは…」

 「見てわかんないのかね、契約書だよ」

 契約者名の欄には土御門光と名前が書かれている。

 「申し訳ありませんが、彼は先日協会を辞めました」

 「んなことは知ったこちゃないね、私が用があるのはこっちの男さ」

 すると老女は連帯保証人の欄を指差す。そこには意外な名前が書かれており、檜森は思わず顔を顰めた。

 「堂上、さん…ですか」

 てっきり会長の名前でも書いてあるのかと思いきや、そこには達筆な文字で堂上彰と書かれている。恐らく筆跡から察するに光本人が勝手に書いたものである。

 「さぁ、早く堂上って陰陽師を出しな!居るんだろ?」
 
 老女の怒鳴り声に檜森はわざとらしく肩をすくめる。

 (なるほど。最初から奴を貶める気満々だったわけか)

 檜森はそっと一人微笑むと、今はどこに居るかもわからない光の顔を思い浮かべる。


 (先輩、貴方もつくづく悪い人だ)


 檜森は密かに、そう思うと怒り狂う老女を置いて、事務所の給湯室へと向かう。

 一応、どんなお客様だとしても事務員としてお茶を出さない訳にはいかない。

 (確か、金木犀の紅茶が…)

 この紅茶は会長の部屋から直々に拝借したものだ。きっと本人が知れば怒るに違いない。しかし、問題はない。そんな彼はついこの間、[第三者機関]によって更迭され機密性の高い牢に繋がれたばかりだ。

 主な理由は陰陽師として禁忌を破ったことにある。しかも、その理由が恋愛感情のもつれという何とも馬鹿馬鹿しい理由であった。
 そして、それを暴露した堂上も今迄に加担して来た自らの罪を告白し、今は自宅謹慎処分となっている。

 檜森はゆっくりとした所作でポットに茶葉を入れていく。

 「まぁ、堂上さんは中々計算高く立ち回って罰を軽減されましたが、陰陽師への復帰は絶望的でしょうね…」

 堂上は事務職員としての正式な採用を必ず断る。故に彼は光が残した多額の負債と共に協会を去ることとなる。

 「ですが、ちょうどいい罰でしょう」

 陰陽師は昔から罪を犯すと、とある第三者機関によって密かに裁かれる。

 それは本当に少数の古い陰陽師達にしか知られていない事実。

 恐らく、会長も、先輩も知らない。

 何故なら知られれば身動きが取りづらくなるからだ。

 この第三者機関は引退した選ばれし陰陽師だけに知らされる。遥か昔より続く先人達の知恵。

 この機関のおかげで陰陽師の格式は守られて来た。

 「まぁ、今後はもっと監視体制を強化しなくてはなりませんがね…」

 まさか、会長自身が過去に禁忌を犯していたとは知る由も無かった。それは一重に、この機関の人手不足によるものだと檜森は推測する。

 「と言うことで、堂上君だけは解放してあげましょうか。話によればもう術を使えないそうですし…」

 檜森はそう言うと、耳にはめた小さなデバイスに話しかける。どうやら、先程から誰かと話をしているようだ。

 「えぇ、分かりました。では後ほど堂上君には私から連絡を…。まぁ、その前にあの五月蝿い来客者には少し記憶を失っておいてもらいましょう…」

 檜森は静かにそう呟くと、甘い香りのする紅茶を持ってその場を後にした。

 

《事務職員(元陰陽師)の主な仕事》

一、書類整理

二、お茶だし

三、来客対応


そして、


四、危険な陰陽師の監視及び排除




(先輩は、監視対象の一人)




性悪陰陽は今日も平気で嘘を吐く。

ーー【了】ーー
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