性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「これで、全部?」

 自宅のリビングルームで光はダンボール箱の中身を覗き込んだ。

 「はい!後は車で運んじゃえばいいと思ったので…」

 あの宿屋での一件後、光は類に今までの事を全て謝罪した。

 「まぁ、それもそうだな…」

今まで誰にも打ち明けなかった自分の気持ちを全て吐き出した光は、人生で初めて自分の素直な気持ちを類へと伝えた。

 「すみません、相変わらず頼りっぱなしで…」

 類は少々申し訳なさそうに眉根を下げる。

 「今更遠慮すんなよ、そういうのマジでウザい」

 言葉とは裏腹に、優しい表情の光に類は何故か吹き出してしまう。

 「そう言えば前にも言われた事ありましたっけ?」

 類の意外な反応に光は少々驚く。

 「また、何か思い出した?」

 どう言う訳か、あの宿から帰ってきてからと言うもの徐々にではあるが類の記憶は戻り始めていた。

 「いえ、完全にでは無いんですけど…何となく昔もそう言われたことあるなぁと、思ったんです」

 理由はよくわからないが、もしかしたら目には見えない何者かが必死に記憶の扉を叩いてくれているのかもしれない。

 「そうか。良かった…」

 光は少しホッとした面持ちで微笑む。そこにはもう性悪陰陽師の面影は見当たらない。

 「でも、本当に良かったんですか?」

 「何が?」

 「協会ですよ…、別にわざわざ辞めなくても」

 二人で話し合いを重ねた結果、光は協会を辞める決断を下した。理由はいわずもがな愛しい存在を守る為である。

 「いいんだよ、俺が協会を辞めれば親父はもう俺を監視してこないだろうし、何より類が安全だ」

 「それはそうなんですけど、、」

 少し不安そうな表情を浮かべる類の姿に光は苦笑する。

 「まさか、鴉天狗を礼二に譲った事を心配してる?」

 「だ、だって、協会も辞めて、鴉天狗も譲ってしまったらこれからどうやって生活していくんですか?」

 協会を辞めることは何となく覚悟していた類であるが、まさかもう一つの稼ぎ口である鴉天狗を礼二に譲ってしまうとは夢にも思わなかった。

 「んな心配すんなよ、一応ツテはあるし、なんなら個人でまた陰陽師の仕事受けてもいいし、貯金もそれなりにある」

 光はそう言うと心配そうな表情の類を抱き寄せる。

 「それとも、何もない俺は不安?」

 「いえ…、そういう訳では」

 突然、距離が縮んだ事に類は頬を赤らめる。あの宿屋での一件依頼、彼の言動には何故かドキドキさせられている。

 
 あの日、彼は確かな口調でこう言った。

 これからは、全てゼロから考えていきたい。

 二人で一緒に生きる道を、

 自分が素直に生きられる道を、

 見せかけや、自己犠牲ではない、

 自分らしく在れる道を。

 
 「心配しなくても【大丈夫】だよ。俺これから頑張るから、だからさ信じて着いてきてよ」

 きっと出会った頃なら警戒した筈の言葉も、何故か今は素直に信じることが出来る。

 類はゆっくりと光の背中に手を回す。すると、背後で誰かが自分の事を抱きしめている様な感覚に陥った。

 (……覚?)

 記憶を失い、あの世とこの世の境に行く機会が無くなってからというもの、彼に会うことは無くなってしまった。


 しかし、確かに今、彼の存在を感じた。


 
 (そっか…、)



 目には見えないけど側にいる。

 きっと、お父さんとお母さんも。

 自分の命を繋いでくれたご先祖様も。

 みんな、みんな、付いている。

 私は、決して一人なんかじゃない。

 類はゆっくりと顔を上げると見慣れたマスク姿の光に微笑んだ。

 「光さん。もう、マスク取っちゃいましょうよ」

 類はそう言って光の顔からゆっくりとマスクを下す。

 「別にいいけど…、何?キスでもしてくれるの?」

 「して…欲しいんですか?」

 「…」

 類はゆっくりと光の頬に手を添える。心なしか光の表情は赤みを帯びている様にも見える。

 「光さん」

 「んだよ…」

 「【目を閉じて】下さい」

 光は類の命令に抵抗することなく素直にその瞳を閉じる。

 「光さん」

 「今度は何?」



 
 「私を救ってくれて、ありがとう」





 類はそう言うと光の唇に優しく口付けた。
 

 







 

 言葉には魂が宿るという、

 それは、使い方によっては人を殺しもし、救いもする。

 時にはその言葉が、ナイフや、毒に変わったとしても、

 誰かが、愛ある言葉を放つだけで。



 人生はキラキラと輝き始める。




 光は類の言葉に内心そっと微笑む。


(やっとわかったよ。


 お前と覚は、


 俺に愛を教える為に産まれて来てくれたんだね)


 ありがとうー。


 




 ーーーEND?ーーー
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