性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「よし。こんなもんかな…」

 二人が黙り込んでから数分後ー、光はやうやく類に声をかけた。

 「ほら、目開けてみ」

 類はその言葉にゆっくりと瞳を開く。

 「…なんか目がパサパサする」

 慣れないメイクに類は目を何度も瞬かせる。しかし、光から手渡された手鏡を見て思わず言葉を失う。

 (…これ、私?)

 猫の様に綺麗なアーモンド上の瞳は何処か色っぽく、まるで自分ではない様な感覚を覚える。頬には薄っすらとチークが引かれ、明らかに血色の良い色使いに類は思わず溜め息を吐く。

 「化粧してこいっつたら、これくらいして来い」

 光はそう言いながら笑うと、ポケットから一本の口紅を取り出した。

 「はい。仕上げするから、もう一回こっち向いて」

 半ば強制的に顎を掴まれるが、なぜかこの前の様な強い力ではなく、どこか割れ物を扱う様な優しさがあった。

 「お前の薬用リップ貸して」

 光は類の唇に紅を引き終えると、最後に薬用リップを上から重ね付けした。

 「よし、完了。どう?」

 光の言葉に、類は再び手鏡を覗き込む。

 「凄い…」

 まるで、別人の自分に類は手鏡から目が離せなくなる。

 「凄いです!光さん!」

 想像以上の出来に類は興奮気味に光を賞賛する。
 
 「ま、俺の手に掛かればこんなもんよ」

 光はどこか自慢気に答えると、化粧品を丁寧にポーチへとしまった。

 「わ、私、さっきより、いい感じになりましたか?」

 「うん、凄く」

 「か、可愛いくなれましまたか?」

 「まぁ…、可愛いんじゃない?」

 光はどこか照れ臭そうにそっぽを向いて答えると、類は「良かったぁー」と安堵した表情で呟いた。
 
 「んだよ、それ」

 一体何が良かったのか理解出来ない光は、苦笑しながら尋ねてみる。

 「だって、これで光さんと並んで歩いても恥ずかしくないですもん…」

 どこか恥ずかしそうに笑いながら、そう答える類の姿に光は一瞬、心を掴まれる。

 「……」

 「光さん?」

 突然黙り込んでしまった光に類は思わず不安になる。

 「す、すみません!私また何か変なこと…」

 「いや、ただちょっと…」

 「ただちょっと?」

 「…お前が少し、可愛く見えた」

 光はどこか恥ずかしそうに顔を背けると、とても小さな声でそう呟いた。
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