性悪陰陽師は今日も平気で嘘を吐く。
 「はい。NG」

 誠の授業参観当日、類のことを車で迎えに来た光は到着早々、顔を顰めた。

 「えっと…、何か変ですか?」

 外で光の到着を待ち構えていた類は緊張した面持ちで光に何がNGなのかを尋ねる。

 「何って…、お前ちゃんと化粧した?」

 光は類の顔をまじまじと見つめる。

 「し、しましたよ!」

 類は慌てて反論する。

 「どこら辺が?ほぼスッピンじゃん…」

 どこからどう見ても化粧をしている様に見えない類の姿に光は溜め息を吐く。

 「く、口に軽く薬用リップと、あと、日焼け止めクリームを…んぐっ!!」

 類が簡単な説明を終えるなり、光は類の唇を親指で擦る。

 「薬用リップ?お前馬鹿なの?」

 類は慌てて口元を押さえながら「…なんですか」と涙目で訴える。

 「俺は化粧してこいっつたんだ。顔にクリームだけ塗るのがお前の化粧なのか?」

 光の言葉に類は慌てて反論する。

 「いや、だって授業参観だし…、それに濃くしてくるなって言ったのは光さんじゃないですか!」

 「お前のはただの化粧下地だろ、その上に化粧してこいって言ったんだよ」

 「しょ、しょうがないですか!化粧品ほとんど持ってないんだから!」
 
 「エリカに借りるとかあんだろ」

 「じゃあ、今から借りてくるんで光さんがしてくださいよ!」

 「…」

 類の言葉に、光は暫く黙り込む。内心、光を怒らせてしまったのではないかと不安を感じながらも、類は言ってしまった手前、後に引く事が出来ない。

 「…わかった」

 「…え、」

 暫くの沈黙の後、意外にも光は類の言い分に了承を下すと、何を思ったのか車から降りて後方のリアゲートを片手で開けた。

 「シート倒すからここに座って」

 光は手際良く後部座席のシートを倒していくと、類をそこへと座る様に指示を出す。

 「えっと…」

 少しと戸惑いながら光の指示に従うと、光は満足そうに微笑んだ。

 「今日だけ特別な」

 光はそういうと、何処からともなく女物の化粧ポーチを取り出した。

 「光さん、化粧品…持ち歩いてるんですか?」

 「バーカ。これは借りもんだよ…」

 「誰の借り物ですか…?」

 「お前には教えてやらない」

 光はそう言うと手際良く類の前髪をピンで留めていく。

 「はい。目閉じて」

 「な、何でですか…」

 警戒心丸出しの類に光はわかりやすく眉間に皺を寄せる。

 「じゃあお前は眼球にアイライナーが刺さっても文句言わねぇんだな…」

 光の言葉に類は「あぁ、なるほど」とようやく納得する。

 「へ、変な事…、しないで下さいよ?」

 「変な事って?」

 まるで、何のことかわからないと言った様子の光に類は溜め息を吐く。

 「…わかりましたよ」

 仕方なく目を閉じて光に顔を向けると、光は少々鬱陶しげに「わかりゃいーんだよ」と愚痴をこぼした。

 「光さん、メイクとか出来るんですね…」

 「昔付き合ってた女から学んだ」

 「瑞稀さん意外にもお付き合いされてた方がいるんですか?」

 類の意外そうな反応に光は苦笑する。

 「お前の中の俺はそんなに冴えない訳?」

 「い、いえ!そういうわけじゃ…ただ、どんな人とお付き合いされてたのかなぁって…」

 類は慌てて、言葉を付け加える。

 「…そうさな。瑞稀みたいな美人もいれば、お前みたいなお人好しも居たかな」

 光はどこか悲しげにそう話すと、類の目尻にアイラインを引いていく。

 「…なんで、別れたんですか?」

 「…」

 類は目を閉じながら尋ねる。

 「それって瑞稀の事?それとも他の女?」

 「両方です…」

 類は聞いてはいけないと思いながらも、何となく光が女と別れた理由が気になった。

 「瑞稀の場合は元々好きって感情が薄かった。それ以外はみんな……死んだ」

 「は?」

 みんな死んだー?

 類は思わず目を開く。すると、アイラインを持ったままの光と視線が交わった。

 「…んだよ、目ぇ閉じてろよ」

 光はすぐに顔を顰めると、類は「すみません」といって再び瞳を閉じる。

 「…なんか、すみません」

 類は再度謝罪の言葉を述べると、光は「別に」とだけ答えてそれ以降話さなくなった。
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