惑溺アゴーギク

翠玉の妥協

「あのですね、ほんと、リンドウさんがよかったら……私とセックスして、みます?」
「は?」
「男の傷を癒すには男だって聞いたので……先輩のコト忘れるのは当分無理だけど、リンドウさんとそういうコトしたら、寂しいとか会いたいとか思わなくなるかなって」

 自分の気晴らしの為に、相手を利用するのが後ろめたいらしいドロップが目を伏せた。

「リンドウさん、私のコト好き言ってくれたし、嫌じゃなかったら……この前のお礼まだちゃんとできてないし、他にお礼になるお金も持ってなくて……」

 自信なさげに、伏し目がちに言ってくる。こんな提案、受けない方がいいと思っていても、雄の本能の方は正直だった。自宅のベットの上に想い人がいて、しかも明日はお互い休日。何の支障もない。

「あ、ごめんなさい、シャワーもあびてないのに」
「後でいいでしょ」

 思い出したように起き上がろうとするのを再び抑えて、そのまま事を進める。酒が入っている上に組み敷かれて動けないドロップの服を剥いていると、武器もギターも女も思うままに扱ってきた手に小さな手が触れた。

「何よ」
「えっ、と……その初めてなんです。知識も漫画とかくらいで慣れてなくて、だからあの、メンド臭いっていうか、絶対反応も全然よくないし、ごめんなさい」

 何やら無駄口ばかり囀っている口が、愛らしいけれど憎たらしくて、リンドウは舌を入れて黙らせた。
 こうして、仲のいい隣人だった二人の関係は、変化した。肉体的に繋がったのが吉と出るか凶と出るかはまだ判らない。なるべく丁寧に扱ったつもりではあるが、久方ぶりに飛んでしまった面もある。ただ肌の熱さや體の重みを直に感じたのが良かったのかもしれない。
 少なくとも、リンドウは胸中に澱のように溜まっていた鬱屈はだいぶ解消されていた。今までのような苛立ちや焦燥はなく、他の男に引かれるようであれば、目を反らさせてやればいい。失恋相手と似た男を見た後にそわそわしていたりすれば、すぐに判るので特段難しい事ではなかった。
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