失くしたあなたの物語、ここにあります



 恋岩がある大岩の前には長蛇の列ができていた。

 恋岩が観光プロモーションとして利用されるようになったのは、いつからだろう。少なくとも今は、自由に出入りできる遊び場だった頃のように気軽には近づけず、天草さんは列から離れた場所で大岩を眺めていた。

「並ばないの?」

 ここで待っていても初恋の人が現れるとは思えなくて尋ねる。

「葵さんが一緒に行ってくれるなら並ぶよ」
「恋岩占い、知らないの?」

 一緒に行く意味がわからない。

「知ってるよ。大岩を右回りに十八歩進んで恋岩に触れたら、恋が叶うんだよね?」
「うん、そう。天草さん、ひとりで並ばないと」
「最近はカップルでそうして触れたら、永遠に幸せになれるって言うらしいね」

 昔はそんな逸話なかった。観光客を呼ぶための、まことしやかに広がったうわさ話を彼も信じていないのだろう。からかうようにそう言った。

「私たちは付き合ってないじゃない」

 沙代子は途方に暮れる。それでも、彼は楽しそうだった。

「本当だね。友だち同士で恋岩に触れたらどうなるのかな」
「何も起きないんじゃない?」
「やっぱりそう思う?」
「友情まで永遠にならないよ。神様もそんなにひまじゃないと思う」

 そう言ったら、天草さんは吹き出して笑う。しかしすぐに真顔になって、列を指し示す。

「試してみようか、葵さん」
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