失くしたあなたの物語、ここにあります
 うららから聞いた話では、高校一年のときに発売されたミックスを、三年のときに弟さんの彼女が学校に持ってきたらしいが、そのときの雑誌が藤井さんのものだった可能性はあるだろう。

「うららに聞いたら捨てちゃったって言うし。せっかくだから、記念に買っておこうと思って」
「雑誌に載るなんてなかなかないですもんね」
「いい思い出になるかな」
「なりますよ、絶対」

 沙代子は自信満々にそう言う。自分の恋には消極的なのにと、おかしかったのか、天草さんは口もとにうっすらと笑みを浮かべたあと、本棚からミックスを取り出す。

「どうぞ」

 カウンター越しにミックスを差し出された藤井さんは、両手でそれを確かに受け取ると、表情を曇らせて小さなため息をつく。

「俺、後悔してるんですよ」
「後悔って……、何かあったの?」
「当時はどうしてうららにさけられてるのかわからなかったけど、ちゃんと話を聞いてあげられてたらよかったのかな」
「さけられてたの?」

 意外な話だ。うららが苦手に思っているのは、弟さんじゃなかったのだろうか。

「あっ、……すみません、こんな話」

 けげんそうにする沙代子に気づいて、話しすぎたと思ったのか、藤井さんは気まずい表情を浮かべると、立ち上がってポケットから財布を取り出す。

「ドリンクと雑誌代、いくらになりますか?」
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