失くしたあなたの物語、ここにあります



 藤井さんの見送りを済ませて天草さんが店内に戻るとすぐ、まろう堂のドアが薄く開く。

 今日はもう閉店にするつもりだと彼は言っていたが、閉めるわけにはいかなくなったようだ。そう思っていると、ドアから見知った顔がひょっこりと現れる。

「あー、やっぱり沙代子さんもいた」
「うららちゃんっ。どうしたの? 急用は済んだの?」
「沙代子さんって素直ですよね」

 うららはくすりと笑うと、カウンター席に座る沙代子の隣に腰かける。

 用事なんてなかったのだろうと思わせるような笑いだ。天草さんとふたりきりにさせようと、妙な気をつかったのかもしれないなんて思ってしまう。

「あれ? 誰かほかにいました?」

 空になったグラスに気づいて、彼女はそう言う。

「さっきまで藤井さんがいたの」
「渚さんが?」
「ここに来れるのは今日しかないからっていらしたの。あ、ねー、うららちゃん。藤井さんが気になること言ってたんだけど、聞いてもいい?」

 どうしてもさっきの話が気になって、沙代子はたまらず尋ねていた。

「えー、私のうわさ話でもしてたんですか? 沙代子さんになら話してもいいですけどー?」

 いつものように彼女はおどける。
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