失くしたあなたの物語、ここにあります
 ため息をついて、悠馬はそう言った。

「悠馬、そんな話……」

 申し訳なくて天草さんを見るが、彼は大丈夫というようにうなずいてくれる。

「こんな本贈ってきたから、俺のこと何にもわかってないって腹が立った」
「悠馬くんはがんばってたんだよね。だから、君は君の人生を生きて欲しい……そういう内容の本に腹が立ったんだね」

 本の帯に書かれている、『君の人生を生きろ』というキャッチコピーに目を落として、天草さんが言う。

 無色の終夜……それは、苦難に負けず、何色にも染まらずに逞しく生きる、純粋な少年の一晩の成長物語。

 いろいろ迷いながら生きる多感な時期にも関わらず、悠馬は自分なりに必死にあがいて彼の人生を生きていたから、何も知らないでと腹立たしかったのか。

「だから、お父さんに会いに来たの?」

 悠馬はいらだたしげにうなずく。

「こんな本いらないって突き返したら、あの人、おかしそうに笑ってた。のんきな笑顔で、なんなんだって……」
「ひょうひょうとしてる人だったからね」

 父には良くも悪くも余裕があった。その姿がまた当時の悠馬にとって、しゃくに触ったのだろう。

「それなのに、今になってやっぱり欲しくなったの?」
「全部取ってあるんだ、銀さんがくれた本」

 どこかさみしげな声音で彼はそう言う。

「本棚にきちんと並べて大切にしてるもんね」
「別に、大切ってわけじゃないよ。年齢に合った本を毎年贈ってくれたから、一冊抜けてるのが気持ち悪かっただけ」

 負け惜しみみたいにそう言って、悠馬は立ち上がると、無色の終夜を胸に抱いた。

「先に帰る」
「一緒に帰るわよ」
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