失くしたあなたの物語、ここにあります
 沙代子が首をかしげると、彼はコースターを横に置く。真っ白な円形の厚紙には、ティーカップが描かれている。

「これはね、まろう堂の色なんだよ」
「あっ、ロゴと同じ色! じゃあ、まろう堂のまろうって、マロウブルーの……」
「うん、そのマロウだよ。そして、これは葵色なんだ」

 コースターに描かれたロゴのカップは、確かに目の前にあるマロウブルーと同じ色だ。

「葵って……」
「まろう堂は、俺と銀一さんのお店だから」
「お父さんを大事に思って、この色にしてくれたの?」
「銀一さんに相談したら、いいんじゃないかって言ってくれてさ。大事に思ってくれたのは、銀一さんも同じだよ。だからこれからも大事に思うよ。銀一さんも、沙代子ちゃんも」

 さらりとそう言う天草さんに、どきりとした。これまでずっと葵さんって呼ばれていたから。

 じっと見つめられて、沙代子は恥ずかしくなって目を伏せる。いつもストレートな気持ちをぶつけてくる彼を上手に受け止められない。

 彼は息を漏らすように少し笑って、キッチンへと入っていってしまった。

 あきれさせたかもしれない。そう思っていると、彼はすぐに別のティーセットを持って戻ってきた。

「なに作るの?」

 彼の手もとをのぞき込む。

 好奇心旺盛な沙代子をおかしそうに見つめる彼は、いくつもの茶葉をカウンターの上へ並べていく。

 オリジナルのブレンドティーを作ってくれるのかもしれない。そう期待する沙代子の思いが伝わったのか、彼はそっとうなずいて、柔らかな笑みを見せる。

「今度は俺に、沙代子ちゃんの思い出になるようなハーブティーを淹れさせて」




【第五話 美味しいハーブティーの作り方 完】
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