今日からキミと 幼馴染以上。
今日からキミと
何、それ。


じゃあ彰久はずっと私を好きだったっていうの?


「信じらんないよ」


「悪かった。紗季にその一言が言えなくて、ずっと傷つけてた」


「私、彰久から嫌われたって思ってて。だから彰久を好きな気持ち捨てなきゃいけないってずっと思ってたのに!」


「ごめん。ごめんな、紗季。ずっとずっと好きだった。だけど思春期で余計に紗季への接し方が分からなくて」


彰久が優しく抱きしめてくれる。


嬉しさもあるけど、今は戸惑いが大きい。


ふたりが離れていたこの数年はあまりにも、長い。


「彰久、ごめん。私も彰久のこと好きだよ。最近一緒にいてやっぱりドキドキする気持ちはあるの。でもそれが子供の頃の恋心なのか、今の恋心なのか私には分からない」


「そうだよな、今更だよな」


彰久の身体がゆっくりと私から離れる。


自分から突き放したクセして途端に寂しくなるなんて。


「だから、今日からまた幼馴染をやろう。私、彰久とまた幼馴染に戻りたい」


そして、いつか現在の私の気持ちが幼馴染以上を求めたら。


「うん。今は紗季と幼馴染に戻れただけで充分。でもそれだけじゃ俺満足しないから」


「えっ?」


「紗季と幼馴染、その上は恋人で……その上は家族。幼馴染の期間が早く終われるように、紗季にまた好きになってもらえるように頑張るから」


少年のように笑う彰久の顔は、あの頃の彰久の顔だった。



それから彰久とデートを重ねてふたりの時間を増やして、


きっと学生時代、彰久と幼馴染のままだったら遊んでただろう場所へ行ってふたりの間に出来た隙間をどんどん埋めていく。


「ねぇ、いいじゃん。待ち合わせ相手なんて放っておいて遊びに行こうよ〜」


待ち合わせ場所に少し遅れていくと女性に誘われている彰久の姿。


そりゃあビジュアルはあの完璧すぎる顔面だ。


私なんか幼馴染じゃなかったらきっと相手にもしてくれないだろう。


あぁ、久々だな。このモヤモヤ。


「ねぇ、行こうよ。あたしと遊んだ方が楽しいって」
「おい、いい加減に」

そう言って女性が彰久の腕に触れようとしたとき、


「ダメ!」


咄嗟に彰久の腕にしがみつく。


「紗季?」


「何あんた」


邪魔をされた女性が私を睨みつける。


「幼馴染、です」


「幼馴染ぃ?それなら引っ込んでてくれない?」


そうか、幼馴染は彰久の恋愛に口を出せないんだ。


心がズキっと痛む。


幼馴染の立場はあまりにも弱すぎる。


「今は幼馴染だけど、彰久の恋人になりたい!」


「紗季…?ほんと?今の言葉、撤回は受付ないからな」



頷く私を力強く抱きしめる彰久。


街中だということを忘れてしばらくの間、私たちはお互いの温もりを抱きしめた。


今日からキミと、幼馴染以上。
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