東雲くんは【平凡】がわからない!
「若葉さん」

東雲くんが嬉しそうに目を細める。
そこにはさっきまでの肩を落とした姿はなかった。

「ありがとう」

「あ、い、いやー……なんか語ってごめん。恥ずかしいな」

「信じてくれて、ありがとう」

「……あ……うん」

彼らしい真剣な感謝のコトバ。わたしはそれを受け取り、うなずいた。
くすぐったいような誇らしいような、ムズムズした気持ち。
でも嫌なものではなかった。

少なくとも転校してきてから、……ううん、前の学校にいたときから感じていた息苦しさはずいぶんマシになっていたのだ。


「じゃ、じゃあ、東雲くん……魔術のことだけど……」

言いかけたとき、保健室のドアが開いた。

「あ!若葉さん、東雲くん!」

そして息を切らした光井さんが顔を覗かせる。

「光井さん!」

「大丈夫?美術室になかなか来ないから見に行ったら、サッカーボールにぶつかったってきいて……」

光井さんは少し青ざめている。
どうやらかなり大げさに伝わってしまったようだ。

というか、保健室に行く前に光井さんに言っておくべきだった。あのときは東雲くんの指が腫れてきたのを見て焦ってしまっていた。
光井さんには悪いことしちゃったな。

「ごめん、光井さん。ちょっと俺が突き指しちゃっただけで大したことないよ。
待たせてしまって本当にごめんな」

東雲くんのテーピングされた指を見て、光井さんが心配そうに眉をひそめる。
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