笑わない冷血姫は溺愛王子様たちに捕まりました。

♢2年1組の王子様たち


「…うぅ。」


私は今、数分前の自分をすごく恨んでいる。


何で気づかなかったんだろう…人気な方にお姫様抱っこをされると、その相手がどんなに地味でもーー注目されてしまうことを。



「きゃあ…っ!!まさかYuki様と紗菜様はお付き合いされてるの…⁉︎」

「はぁ…っ、眼福とはこのためにあったのねっ…‼︎」

「可愛い系美少年×奥手なクーデレ美少女…っ、まさに王道かつ最強な組み合わせっ…」



今は2年生の廊下を歩いている…っていうか、お姫様抱っこ状態なんだけど…


それより感じるのは、沢山の女の子たちの刺さるような視線と…ヒソヒソとした話し声。


うぅ…や、やっぱり何か言われてしまっている…


私ならまだしも、関係のないゆきさんまでご迷惑をかけてしまっている…、私は勇気を出してゆきさんに話しかけた。



「あ、あの…」

「ん?どうしたの?紗奈ちゃん。」

「その、ご厚意で抱き上げていただいていると思うのですが…もう廊下ですので、降ろしていただいて構いませんよ…?」



本音を言うと、とても恥ずかしい!!そ、それにゆきさんにまで私みたいに悪い噂がたって孤立してほしくないし…



「えー?それは嫌だな。」



すぐに降ろしてくれると思っていた私に届いたのは意外な返事だった。



「え、えっと……そ、それはどうして、でしょうか……?」

「んー?理由?それはね簡単だよ♪」



そう言い、とびきりの笑顔を見せているゆきさん。



「え、えっと……?」



どう言うのが正解か分からず私は頭の上にはてなマークを浮かべていた。
そんな私を見かねたのか、ゆきさんはただでさえ近い顔の距離を更に近くして、私の耳元で囁いた。



「僕は紗菜ちゃんが好きだから……!
ほら、好きな人にはずっと触れていたいでしょ?」

「ふぇ……っ!?」



耳で囁かれたのも相まってか自分でも引くくらいの変な声を出してしまった。



「い、いやいや、わ、わたしのことが好きとか、な、ないですよね?婚約者候補さんだからお世辞をおっしゃっているん、ですよね……?」

「え?僕は本気で紗菜ちゃんが好k……」

「あ〜れ?雪斗、どうしてこんなところにいるのかな?」



ゆきさんが何かを言いかけた時、急にゆきさんの背後に気配が増えた。
この心地よい低音の声は……予想通り、声の主は白石さんだった。



「おい、雪斗!お前、月摘を見つけたら連絡しろって言っただろ。」

「そうだよ〜そ・れ・に、お姫様抱っこなんてしちゃってさ〜。なに勝手なことしちゃってんの?」



白石さんに続いて、少し怒った様子の紺乃さんと不服そうな顔の新堂さんが出てきた。少し焦ったような顔のゆきさんは事の事情を3人に話した。



「……という訳なんだよ。」

「え…?紗菜さん、今は体調は大丈夫なんですか?」



事情を聞いた直後に白石さんが焦った顔で私に問いかけたのと同時に私の額に優しく手を添えた。



「は、はい……今はだ、大丈夫です。」



うぅ……体調は良くなったけど……お、おでこの手が……!
それに男の人の顔がこんなに近くにあるのは…こ、怖いよ……
あまりの怖さに顔に出ていたのがゆきさんが伝わったのか、ゆきさんは白石さんの手首を掴み、私のおでこから離した。



「え、?雪斗…?どうしたの?」

「…あ、ご、ごめん。夏樹くん…」



ゆきさんは自分がした事に自分自身も納得していないような、そんな複雑な顔になっていた。



「宇美原がそんなことするなんて意外だな。」

「ね。いつもは他人との線引きはしっかりする性格なのに…。」



紺乃さんと新堂さんも心底驚いたような反応を見せている。
どうやらゆきさんがこういうことをするのはとても珍しい事なんだそう……?



「と、とにかく!!ほら皆教室行くよ!ホームルームまであと2分もないんだから!」

「「「やばいな…」」」



3人の言葉が重なったのと同時にゆきさんは廊下をダッシュした。



「わっ……!」

「ごめんね、紗菜ちゃん。少し揺れるからしっかり掴まってて。」



その言葉を合図にゆきさんは更にスピードを上げた。
……そして気付いたら2年1組の教室にいた。



「はい、紗菜ちゃん着いたよ。」



そう言い丁寧な所作で足からゆっくりと降ろしてくれたゆきさん。



「あ、ありがとうございました。ゆきさん。」

「えへっ……お礼なんていいのに。それより紗菜ちゃん!早く席つかないと遅刻しちゃうから…ほらほら座った座った。」



ゆきさんはただでさえ綺麗な顔をニコッととろけるような可愛い笑顔を見せた。
私はゆきさんに促されるように自分の席に着いた。その直後ーーー



ーキーコンカーコンー



あ、危なっ……。
って……それにしてもゆきさん達は大丈夫なのかな……?私のせいで遅刻させてしまったのであれば後で絶対に謝らないといけないな…



「……はーい。ホームルーム始めます。」



あ、担任の先生が教室に入ってきた。



「あ、その前に皆さん知ってると思うけど、編入生の紹介からします。」



先生のその一言で教室がザワザワとざわめいた。
……それにしても、良かった。ゆきさん達は自己紹介をしないといけないから多少到着が遅くなっても問題ないみたい。



「じゃあどうぞ入ってください。」



教室がザワザワとしている中、ゆきさん達は教室に入ってきた。



「では宇美原さんから自己紹介をどうぞ。」



この瞬間、ザワついていた教室がまるで誰もいない放課後の教室かのように静まり返った。



「はーい!皆さん、はじめまして〜!!
僕は宇美原雪斗って言います!いっぱい話しかけてくれると嬉しいです!」


先生の声がけを始めに、静かな教室にゆきさんの元気な声が響いた。



「皆さんはじめまして。白石夏樹です♪
今日からクラスメイトとして仲良くしてくださいね?」



ゆきさんに続いて白石さんも自己紹介をした。しかも、ウインクまで決め込んでいる……



「…紺乃涼です。」



紺乃さんは……流石というかなんというか、本当にキャラがブレない。



「はじめまして〜!新堂司って言います。これから1年間クラスメイトとして仲良くしてくれると嬉しいな。」



新堂さんは持ち前の爽やかな雰囲気をかもし出しながら自己紹介を終えた。
4人の自己紹介を終えた瞬間ーー教室がまた大きくざわついた。



「え、え!?何これ、ゆ、夢…!?」

「実物顔面国宝すぎんだろ…!!」

「今日まで生きてて良かったよぉ…!!!」



ものすごい熱気に思わず耳を塞ぎたくなった。そんな時ーー



「はいはーい、皆さん静かにー。
宇美原さん、白石さん、紺乃さん、新堂さんは今日から月摘さんと同じVIPルームに入寮するので月摘さんは放課後4人を案内してあげてくださいね。」



「わ、分かりました…」



分かっていたことだけど、改めて言われると本当に不安だな…と1人で落ち込んでいる私をよそにクラスメイトの皆さんはさっきと同じくらいの熱気で盛り上がっている、



「え〜!?あの4人紗菜様と同じVIPルームに入寮するんだ…!?」

「これは大ニュースだよね!?もしかして紗菜様、あの4人の誰かの事好きだったりして…?」

「逆もあるかもよ?紗菜様、えげつないほどの美人だし。」



「…ちなみに、皆さんもご存知のようにVIPルームは成績順で最大5人まで入寮可能な特別寮です。変な誤解はやめるように。それではホームルームはこれで終わりますー」



さすがに教室が騒がしすぎたのか、先生はクラスメイトの皆さんを牽制するように注意してくれた。そこまで親密な仲ではないから心の中でありがとうございますとお礼を言う。



ーキーンコーンカーンコーンー



タイミング良くチャイムが鳴った。確か今日の一時間目は体育だったよね…?もう移動しちゃおうかな…



「あの!紗菜様…!!」



自分の席を立とうとした私に届いたのは一言も話した事ないクラスメイトの女の子だった。
滅多に女の子に話しかけられないからすごく嬉しいな…!という気持ちは隠しながら返事をする。



「は、はい…何でしょうか?」


私なりに笑顔をつくり、元気に返事をしてみた。…久しぶりに表情筋を動かした気がするな…



「単刀直入にお聞きするんですけど、紗菜様と宇美原様たちってどう言う関係なんですか…!?」

「へ、…?」



想像していた内容とかけ離れすぎていて、焦りと困惑がきっと顔に出ていると思う。こ、これは何て説明するのが正解なんだろう…?
せっかく先生が牽制してくれたこともあり、正直に私の婚約者候補さん達です、なんて言えるわけないし…
私が黙ってしまったせいか、女の子は心配そうに私を見つめている。…何か、言わなきゃ…っ



「えっと…っ」



あぁ、こんなんだからクラスメイトの皆さんから距離を置かれてるんだな…そう、自分の非力さを感じた時、私の肩にポンと大きな手が置かれた。



「ねぇねぇ、ちょっと話聞いてたんだけど、僕の方から説明してもいいかな?」



私を庇うように女の子の前に立ったのは、ゆきさんーもとい、宇美原さんだった。今日で3回も助けてもらってしまった…



「僕たちと紗菜ちゃんの関係は、簡単に言うと友達未満のボディーガードみたいなものかな。」

「友達未満のボディーガード、ですか…?」

「うん、ほら紗菜ちゃんってすごくモテるでしょ?ストーカーとか危ないからさ。紗菜ちゃんのお母さんに頼まれたんだよね〜」

「そう、なんですか…少し残念です…」


どう誤魔化すかヒヤヒヤしたけど…なんとか誤魔化すことに成功したみたい。良かった…そう私が安心した時だった。



「まぁ僕は紗菜ちゃんのこと大好きだけど。」

「え、?」

「えぇ〜!!??」



やっと安心していたのに…なんでここにきて爆弾発言するんですか、宇美原さん…!?驚いたのはもちろん私だけではなく、白石さん達やクラスメイトの皆さんも大きく目を見開いてる。



「や、やっぱり紗菜様と宇美原様は親密な関係だったのね…!!」

「となると、他の御三方もそのような関係だったり…!?」

「隣のクラスの友達が言ってた紗菜様を宇美原さんがお姫様抱っこしていたっていう情報は本当だったのね…!」



ど、どうしよう…変な誤解を生んでしまっている?誤解を解こうにも、異様な盛り上がりをみせている2年1組には私の声も、白石さん達の弁明の声も届かなかったのだった。





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