《連載中》波乱の黒騎士は我がまま聖女を甘く蕩かす〜やり直しの求愛は拒否します!
第二章
黒騎士の転身
ふとレオヴァルトの脳裏を少年の明瞭な声がかすめた。
声変わりしたばかりの、溌剌とした響きをはらむ声だ。
—— 『アルハンメル王家の軍神』の二つ名を持つレオヴァルト様が、軍隊を放って、こんな辺境でいつまでも放浪してる場合じゃないでしょう。
《弱き者を救いたい》っていうご意志は立派だと思いますけど、色恋はそっちのけで、弱者にばっかりかまってるから良い縁談が遠のくんですよ? 二十五歳なんてもういい歳《トシ》なんですから、そろそろ帰って立派な後継《あとつぎ》を産んでくれる女性《ひと》を探したらどうですか? いくら『その薫風に靡かぬ花はない』なんて言われる美丈夫でも、そのうちオッサン化して若いご令嬢が寄り付かなくなりますよ〜。
大人顔負けの生意気を言うケイツビーは、まだ幼さとあどけなさの残る十六歳。帯剣の儀を終え近衛騎士認定を受けたばかりだ。
剣技も体術もまだ未熟で、教えてやりたいことが山ほどある。
——無駄口を叩くな、ケイツビー。王家で唯一正当な血を引く第二王子レオヴァルト様が、《《王城を出た理由》》をお前もよく理解《わか》ってるだろう。側近の中ではレオヴァルト様を国王に擁立しようとする動きが高まっているからな。
——チッ、あの思い込みクソ野郎のトンチキ王太子がっ。レオヴァルト様は王位なんか望んでないって何度言えばわかるんだ?! 一人で勝手に国王になってろってんだ。
——はは! クソ野郎は言い過ぎだがな。国に留まっていても、今は自身の立場を危ぶむ王太子殿下に命を狙われるだけ。妃探しはアルハンメルの王位継承問題が落ち着いてからだ。ですよね、レオヴァルト様?
レオヴァルトよりも齢十ほど年嵩なものの、ザナンザは有能な護衛騎士だ。
貴族出身の彼は結界を張れるほどの魔力を持つ。レオヴァルトの巡業をサポートするには充分すぎるほどの実力を見せてくれていた。
そして——幼い頃からレオヴァルトのそばで従者として育ち、三人の中でも誰よりレオヴァルトの意思を汲んでくれていた、ゲオルク。