男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 マリーゴールドは足首を捻り、そのまま地面に頽れた。そしてもちろん例外なく、マリーゴールドの手首を掴んでいた私も、彼女と一緒に倒れる事になる。

「いたたっ、大丈……」

 思いっきりお尻を地面にぶつけて、そこを手でさすりながら立ち上がろうとしたけどそんな私の目の前には――。

「お前、よくもこの俺をあんな目に遭わせてくれたな……」

 怒りが最高潮に達したキールの顔があった。
 こめかみは血管が浮き上がり、そこが神経質そうにピクピクと揺れている。

「リーチェ・トリニダード、もう許さんぞ!」

 そう言ってキールは私の腕を掴み、無理やり立ち上がらせた後、もう一方の手を大きく振りかぶって――パンッ!
 乾いた音が、広い敷地内で響いた。いいや、響いたと思ったのは私の鼓膜内でだったのかもしれない。
 打たれたのであろう頬が徐々に熱を帯びていく。その熱を帯び始めたすぐ近くの耳孔内では、パンッと叩かれた音が届いたとほぼ同時に、キーンという高音が響き渡っていた。

 打たれた強さに私の体はしなるようにして再び地面に倒れそうになったというのに、自然の摂理に反してそれができなかったのは、キールに掴まれた腕のせいだ。
 まるで壊れた操り人形の腕でも掴んでいるかのようなこの情景に、そばで倒れたままのマリーゴールドの瞳は大きく見開かれた。

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