男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
――殴られる!
そう思って私は顔を背けて、目をギュッと閉じた。
……のに、いくら待っても、その痛みと衝撃はやってこない。
「女性に手を上げるなど、紳士の風上にもおけないな」
その声は、キールのすぐ後ろから聞こえた。キールの背後から彼の手を掴み、キールよりも頭一つ分高い位置から、彼を見下ろしている。
「放せ!」
「そっちこそ、彼女の手を放せ」
レオンはキールの手を締め上げるように力を加え、それによりキールは顔を顰めた。
「くっ!」
やっと解放された私の腕は、さっきとは別のところに赤黒いうっ血の痕が現れていた。
「大丈夫か?」
レオンは私のその腕を見て、眉尻を落とす。表情があまり豊かな方ではないレオンが見せたその顔は、かなり心配してくれている証だと思った。なにせ私の腕にはすでに、痛々しいほどのうっ血した跡が、二つもついていたのだから。
このクズ男のせいで。
「すぐに手当てをしたほうがいい」
「いいえ、その必要はありません。見た目のわりに痛みは少ないのです」
心配してくれるレオンを安心させるために言った言葉。それを素直に受け取ったのはもちろん、この男。
「ふんっ、痛みもないくせに、大げさな」
おい。お前に言ったわけじゃないんだけど? そもそもうっ血してんのよ? しかも二か所も。痛いにきまってるでしょーが!
どうやって噛みつき返してやろうかと考えあぐねいていると、間に立ってくれていたレオンがキールに向かって冷たい視線を投げた。
「痛みがないかどうか、一度同じ痣を受けてみればわかること。必要であれば俺が手伝ってやってもいいが?」
放たれた言葉にも、熱はない。レオン・ベイリー・バービリオン。キールとは違って、女性との噂は全く聞かず、そもそも近づいてくる女性を好まない。かといって別に残忍な訳でも、血が通わないほど他人に冷たいわけでもない。人に興味はないが、紳士的な男である。
そう思って私は顔を背けて、目をギュッと閉じた。
……のに、いくら待っても、その痛みと衝撃はやってこない。
「女性に手を上げるなど、紳士の風上にもおけないな」
その声は、キールのすぐ後ろから聞こえた。キールの背後から彼の手を掴み、キールよりも頭一つ分高い位置から、彼を見下ろしている。
「放せ!」
「そっちこそ、彼女の手を放せ」
レオンはキールの手を締め上げるように力を加え、それによりキールは顔を顰めた。
「くっ!」
やっと解放された私の腕は、さっきとは別のところに赤黒いうっ血の痕が現れていた。
「大丈夫か?」
レオンは私のその腕を見て、眉尻を落とす。表情があまり豊かな方ではないレオンが見せたその顔は、かなり心配してくれている証だと思った。なにせ私の腕にはすでに、痛々しいほどのうっ血した跡が、二つもついていたのだから。
このクズ男のせいで。
「すぐに手当てをしたほうがいい」
「いいえ、その必要はありません。見た目のわりに痛みは少ないのです」
心配してくれるレオンを安心させるために言った言葉。それを素直に受け取ったのはもちろん、この男。
「ふんっ、痛みもないくせに、大げさな」
おい。お前に言ったわけじゃないんだけど? そもそもうっ血してんのよ? しかも二か所も。痛いにきまってるでしょーが!
どうやって噛みつき返してやろうかと考えあぐねいていると、間に立ってくれていたレオンがキールに向かって冷たい視線を投げた。
「痛みがないかどうか、一度同じ痣を受けてみればわかること。必要であれば俺が手伝ってやってもいいが?」
放たれた言葉にも、熱はない。レオン・ベイリー・バービリオン。キールとは違って、女性との噂は全く聞かず、そもそも近づいてくる女性を好まない。かといって別に残忍な訳でも、血が通わないほど他人に冷たいわけでもない。人に興味はないが、紳士的な男である。