男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました
 私がキールとは対象的になるように設定した男主人公だ。
 クールで冷徹感、だけど実際は優しい人。特にヒロインのマリーゴールドにはほかの令嬢とは一線を引くように、一途に優しい男。

 ……って設定だったと思うけど、私が思ってたよりマリーゴールド以外の人にも優しいんだな。
 なんて、私がリアルなこの世界でレオンのことを分析している間、キールはあからさまな不快感をその整った顔の上に表した。
 キールはキールで、なんともわかりやすい男だ。私が作者だからなのかな? 彼のことを知っているだけに、その表情を他者よりも読み取っているのもあるかもしれないけど、それでもやっぱり露骨だと思う。

「リーチェ男爵令嬢」

 必死に抑えようとしている怒りを、奥歯で必死に噛みしめ、前髪を掻きあげた。
 一連の動きも絵になるような美男子なのに、今はもう一ミリも心が揺さぶられない。
 なんとも残念な気持ちにさせてくれる男だ。せっかく私の全霊をかけて作り上げた容姿だというのに。

「なんでしょう?」

 キールをこのような性格に設定したのは私だというのに、それでも残念な奴というレッテルが拭いきれず、思った以上にそっけない返答になってしまった。
 それに気づかないほどキールも馬鹿ではなかったようで、宝石のような瞳が、切っ先の鋭い刃物のような視線を投げてきた。

「次回また会えるのを、楽しみにしているぞ」

 いや、こちらは全くもって、会いたくないんだけど。
 寸前のところまで出かかっていた言葉を何とか食い止めたが、キールは相変わらず私を睨みつけていた。

「俺に恥をかかせて、タダで済むと思うなよ」

 ポツリと捨て台詞を残し、キールは身を翻した。
 コツコツと聞こえる足音すら、彼の怒りが伝わってくるようで、今更ながら頭に上っていた熱が下がってきた。
 ……とりあえず、キールが現れそうなパーティは出られないな。
 でもアイツ、私をわざわざ探してまで参加する予定のなかったパーティに来たくらいだから、私が出席するパーティを選んだところで、避けることはできないかも……。

< 22 / 310 >

この作品をシェア

pagetop