🍞 ブレッド 🍞 ~フィレンツェとニューヨークとパンと恋と夢と未来の物語~【新編集版】
日本~未来へ
       日本

 桜が満開だった。
 フローラは東北の地に立っていた。
 宮城県だった。
 海岸が見える場所だった。
 復旧のための工事が進んでいるようだったが、もう2年が経つというのにまだあちこちに瓦礫(がれき)が放置されていた。
 それを見ていると、テレビで見た津波のシーンが蘇ってきた。
 それはあらゆるものを飲み込んでいく恐ろしい光景だった。


「そこの田んぼには飛行機が突き刺さっていました」
 フローラをここまで運んできたタクシー運転手の声だった。
 飛行場から流されてきて、機体の頭部分が田んぼにのめり込んでいたのだという。

「あそこには大型の漁船が打ち上げられていました」

 半壊した住宅の横にある空き地を指差していた。

「海から何キロも離れているのに……」

 運転手の瞳が揺れていた。

「思い出すと眠れなくなるんですよ」

 家族は無事だったが、親せきや友人が何人も亡くなったという。

「津波は恐ろしい……」

 耐えられなくなったように首を振って車に戻り、ドアを開けて運転席に座った。
 続いてフローラも車内に戻ったが、そこはここへ来るまでとはまったく違う空気に占領されていた。
 それは車が走り出しても変わらず、凍り付くような冷たい空気のまま運転手は無言でタクシーを走らせ、フローラも無言で窓の外を見つめ続けた。

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