このドクターに恋してる
 わかめスープをスプーンで食べようとしていた希子さんが「えっ?」と動きを止めた。

「郁巳先生? 宇部先生じゃなくて?」
「はい」
「あちらから誘われて行ったのよね? 陽菜が突撃したのではなくて」
「そうです。あちらからです」

 希子さんは「で?」と話の続きを促し、わかめスープを食べる。私は持っていた箸を置いた。

「交際を申し込まれました」
「ええっ……」
「希子さん、しーっ」

 希子さんが大きな声を出しそうになったので、私は慌てる。
 希子さんは周囲の視線を気にするようにキョロキョロして、声のトーンを下げた。

「どういう展開なのよ? 宇部先生とはその後、どうなの?」
「宇部先生とは特に変わったことはないです」
「お食事はする予定のままなのね」
「はい。それでどうしたらいいのか、悩んでいるんです」
「悩んでいるってことは、申し込みの返事は保留にしているってこと?」

 私が「はい」と頷くと、希子さんは「んー」と唸った。
 
「それは悩むわよね。でも、贅沢な悩みね」

 兄と同じことを言われて、苦笑いするしかない。

「私もそう思います」

 私たちは箸を持って、食事を再開させる。
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