このドクターに恋してる
近付く人
 パーティー後、宇部先生と郁巳先生の姿を見ない日が続いた。
 憧れの人の顔がまったく拝めず、生活に潤いがなくなった私は暗く、のろのろと帰り支度をした。
 早々とコートに腕を通している希子さんにぼやく。

「今日も会えなかった」
「陽菜、ちょっと病棟に行ってきたら?」
「なんの用事もないのに行けませんよ」
「道に迷ったふりをするとか、どう?」
「えー、そんなの怪しまれるに決まっているじゃないですか。いいから、帰りましょう」

 あまりにも無謀な提案をする希子さんの背中を押して、職員出入り口へと歩いて行く。

「ちょっと陽菜、あれを見て」
「なんですか?」

 出入り口のドアを開けた希子さんが足を止めて、薄暗い中にいる人を「あれよ」と口パクした。希子さんの視線の先には一組の男女がいた。
 私は希子さんの両肩を持ち、後ろからこっそりと眺める。
 宇部先生と……一緒にいるのは、たしか外科担当の看護師で川田さんという女性だ。年齢は私と同じくらいのはずだった。川田さんが口を動かしているのは見えるが、内容は聞き取れない。
 しかし、宇部先生の「ごめんね」だけはハッキリと聞こえた。なにを言われて、謝ったのだろうか。
 人の話を盗み聞きしてはいけないと思うのだが、かなり気になった。
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