このドクターに恋してる
「おお、さすが美結だ。すごいぞ。将来は美容師だな」

 兄は右手の親指を立てて、美結に向けた。
 愛娘には嫌われたくないのだろう。否定的なことは言わなかった。こういうときは気遣いができるようだ。
 どんなふうに返せば美結が不機嫌にならないか、私たちは心得ていた。産まれたときから美結に接しているから、できることだった。

 郁巳先生との関わりも増えれば、宇部先生みたいに郁巳先生が望むことや望まないことがわかるようになるかもしれない。
 でも、郁巳先生はかなり親しい人でない限り、簡単に心を開かないように思える。そもそも親しくなる以前に、郁巳先生との関わりを増やせる機会が訪れそうにない。
 お近づきになれたとぬか喜びしていた自分が恥ずかしくなる。一緒に食事することは二度とないだろうし、話すこともないだろう。
 顔を合わせても、挨拶を交わすだけになるに違いない。明日からの勤務はまた以前のような日々に戻るだろう。

 そんなことを思うと、なんだか寂しくなってきた。
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