このドクターに恋してる

「別に、どういうつもりもない。ただ話をしたいだけだ」
「話をしたいって、それだけのために？　郁巳がここに女の人を連れてくるの初めてじゃないか」
「たしかに、初めてだな。圭介みたいに何人も連れ込んでないしな」
「おい！　人聞きの悪いこと、言うなよ」

　いつもニコニコしている宇部先生の険しい表情を見るのは、初めてだった。
　こんな顔をすることもあるんだ……。
　私の視線を感じたのか、宇部先生はハッとして焦った声を出す。

「あ、陽菜ちゃん、誤解しないで。女の人を連れてきたことはあるけど、ちゃんと付き合っていた人だから。それに今は誰とも付き合っていないから」
「わかりました。あの……宇部先生はおモテになるでしょうから、今まで百人の人と付き合ったことがあると言われても納得できますで、別に気にしなくても」
「ちょっと、待って。陽菜ちゃん、さすがに百人は多すぎだよ」
「あ、多すぎました？」

　いくらなんでも百人も恋人がいたと本気で思ってはいない。
　少しでも険悪な空気が和らぐようにと冗談めかしたのだった。
　宇部先生が肩の力を抜いて、苦笑する。

「ほんと、陽菜ちゃんはおもしろいね」
「じゃあ、五十人くらいですか？」
「いやいや、それも多いよ。その十分の一くらいだってば」