10人家族になりました!
ー詩sideー
夕飯を囲むダイニングには、子どもたちのにぎやかな声が飛び交っていた。

「もー!お義母さん!理人くんと綾人が転校してくるなんて聞いてないよ!めっちゃびっくりしたんだから!」

柚姉がフォークを握りしめながら言うと、朱莉さんはエプロン姿でにっこり。

「だって、決まったの昨日だもの〜」

そのとき――

♪ピピッ♪

パパのスマホが鳴った。

「ん?誰だ……あ、はい、早坂です……はい……え?テレビ……??」

パパの声がだんだん低くなるのと同時に、私の心拍数はうなぎ登り。

「テレビ!?テレビって、あのテレビ!?」
結斗くんが箸を落としかけて大騒ぎ。
「映るの!?僕、テレビ出ちゃうの!?」と郁斗くんがもうノリノリで踊ってる。

そして――数分後。

電話を切ったパパが、深刻そうな顔でソファに腰を下ろした。
……その顔、マジのやつじゃん。

「みんな、ちょっと話を聞いてくれるか」

パパの声が、思ったより静かだったから、かえってドキドキする。

「テレビ局から連絡があってな。『再婚して10人家族になった家族に密着したい』ってドキュメンタリー番組のオファーがきたんだ。どうも、うちの“再婚再構成”という点と、怜と理人がピアニスト、綾人と柚がダンサーとして活動しているということで、注目されているんだって。たぶんネットに誰かが書き込んだのがきっかけで……それで局が興味を持ったらしい」

「10人家族ってだけでもインパクトあるけどさ〜」と柚姉がナイフをくるくるしながら、
「怜と理人がピアニストで、私と綾人がダンサーとか……なんか、番組化まっしぐらじゃない?」と妙に冷静に言った。

「……誰がネットに書いたんだよ」
理人くんが苦くつぶやく。
でも柚姉と綾人くんは目を合わせて爆笑。

「もしかして、TikTokに載せたやつじゃない?“双子ダンス対決”ってやつ!」
「あ〜!あれ、100万回くらい再生されてた〜!」

「おい、おいおいおい……」と理人くんが額を押さえてる。

依はというと、黙ったままスプーンを見つめてた。気づいた朱莉さんがそっと背中に手を当てて、やさしく声をかける。

「依ちゃんも、イヤだったら、ちゃんと言っていいのよ。無理はしなくていいからね」

その言葉に、ちょっとだけ依が顔を上げて、そして……小さくうなずいた。

そして、私の中でも気持ちがぐるぐるしてた。
テレビに出るってことは、いいことも悪いことも、全部さらけ出すってことで。
でも……だからこそ、ちゃんと“家族としての私たち”を、見せたいって思ったんだ。

私は、意を決して言った。

「……わたし、出てみたい。みんなで家族としてここにいることを、見てほしいから」

その言葉に、空気がすっと変わった。
怜姉がフォークを置いて、少しだけ微笑んだ。

「……私も、いいと思うわ。伝えることに意味があるなら」

柚姉がガッツポーズして「さっすが怜!で、私はもちろん賛成ー!活動続けてたらどうせバレるしね〜!むしろプラスにしてこう!」

そしてそのまま理人くんの肩をポンッと叩く。

「理人くんは? 怜と一緒にテレビ出るとか、エモいんじゃない?」

「……エモくはないけど、まあ……やってみる」

理人くんの一言に、綾人くんがすかさず立ち上がる!

「じゃあ俺も出る!! フォロワー倍増チャンス到来ー!!」

「ちがーう!! それじゃただの売名!!」と柚姉がすかさずツッコミ。

結斗くんと郁斗くんはというと、テレビって言葉だけでテンションマックス。

「出たいー!!」「映りたいー!!」

最後に、朱莉さんとパパが見つめ合って――
うん、ってうなずきあった。

「じゃあ……この家族で、受けてみよう」

パパの言葉に、拍手と笑い声が混ざっていく。

こうして、早坂家――10人家族の、ちょっとドタバタで、ちょっと素敵な物語が、カメラの前でも始まろうとしていた。
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