10人家族になりました!

テレビの取材がやってくる!?

― 詩 side ―

テレビ密着、初日。
早坂家の朝は――いつにも増して、にぎやかだった。

「結斗ー!前髪、寝ぐせついてるー!」
「えぇ!?ウソ!?テレビくるのにぃ!!」

「郁斗、シャツ前後ろ逆!!」
「ギャーッ!!なんで毎回こうなるの!?」

「おい綾人、なんでそんなにきめてんの」
「“自然体のオレ”ってテーマでやるから」
「それが一番不自然だよ」

とにかくみんなテンパってる。私もだけど。
心臓が、朝からずーっと、ドクドクいってる。

リビングに降りると、パパがネクタイを締めながら鏡の前でうろうろしてた。

「なあ朱莉……このネクタイ、地味すぎないか?いや派手か?いや……そもそもネクタイって今の時代どうなんだ?」

「ふふ、それ言い出したらスーツ自体がどうなのよ」
朱莉さんが笑ってるけど、いつもよりちょっと髪型ふわっとしてる。やっぱり気にしてるんだ。

そして、チャイムが鳴った。

ピンポーン。

「……来た。」

ドアの向こうから、「おはようございまーす!テレビ〇〇ですー!」って、明るすぎる声。

パパが深呼吸して、ドアを開けた。

「おはようございます、早坂一です。今日はよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーす!」と、若いディレクターさんが元気よくペコリ。

カメラマンさんと音声さんが、すでに機材を回してて――
あ、私、もう映ってるんだ……って思った瞬間、体がガチガチになった。

「じゃあ、まずはリビングで、みなさんにご挨拶いただけますか?」
ディレクターさんが笑顔で言った。

「はい……えーっと……」

パパがみんなを見渡して、言った。

「自己紹介もしなきゃだな」

……キターーー!

「じゃあ、順番にいこうか。名前と、家族の中でのポジションと、あと……一言!」

えっ、一言!?
急にそんな、自己PRみたいなやつ……む、無理なんだけど!?

まず最初に出てきたのは、怜姉だった。

「長女の怜です。ピアニストやってます。……一言、ですか?えー……“早坂家、練習環境バッチリです”」

「なんのアピールだよ」
と、理人くんが小声でつっこむ。が、次の瞬間、カメラが理人くんに向く。

「理人、長男。こちらもピアニスト。えー……一言? “音は嘘をつかないけど、人は緊張する”……そんな気分です」

「ちょっとカッコつけた〜」
柚姉がくすっと笑って手をあげた。

「はいはーい、柚!次女!ダンサー!……えー一言は、“カメラさん、推しカットよろしく!”で!」

「もう映りたくて仕方ないんだな」
と、綾人くんが笑って登場。

「綾人、三男。双子の弟。オレもダンサー。……一言?“自然体が一番映えるんで、よろしくです”」

「どの口が言うのよ」
「髪型1時間かけてたくせに」
と柚姉と怜姉に冷静に指摘される。

次に依が、おそるおそる前に出た。

「……依です。三女。えっと……猫が好きです」
それだけ言って、すぐ後ろに下がる。

でも、それだけの言葉でも、なんだか依らしくて、ほっとした。

結斗くんと郁斗くんは、そろって元気に叫んだ。

「ぼく、結斗!五男です!テレビいっぱい出るー!!」
「いくとでしゅ!!かめんらいだーになりましゅ!!」

「えっ、そんな予定あったの!?」
パパと朱莉さんが一緒に吹き出した。

そして、いよいよ私の番がきた。

私は一歩前に出て、深呼吸して、言った。

「詩です。次女です。11歳です。……たくさん家族が増えて、まだちょっとびっくりしてるけど、よろしくお願いします」

それだけ言ったら、胸がじんと熱くなった。
――ちゃんと、“今の私たち”を見てもらえますように。
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