一途な皇帝陛下の秘恋〜初心な踊り子を所望する〜

敵か味方か

「江洋、よくやった。遂に女を仕留めたか。」

ハッハッハッと高らかに笑い、勝ち誇った顔を浮かべるのは、香の国の元防衛大臣である香民(コウミン)である。今やこの国の王の右腕でさえ呼ばれるまでにのし上がった男だ。

「ここに、証拠のペンダントを持参しました。」
江洋は片膝を付き臣下の礼を取る。

「女は即死だったか?どのような最後だったか話せ。」
香民は高座に胡座をかき、興味津々で身を乗り出して洋に聞いてくる。

「女は即死でした。私が射た弓が女の心の臓を貫き、毒が一気に体を回り…。」
洋は詭弁に作り話しを、まるで目の前で起こったかのように話して聞かせた。

全ては晴明の計画通り台本通りに事は動き出す。

「しかし…とても美しい娘でした。ペンダントを奪った時にその事に気付き…良心の念に駆られました。」

「まぁ、そうであろうな。その娘の母親も美しく天女のようであった。あの男の物にならなければ野垂れ死ぬ事もなく、わしが手にしていたのに…憎たらしい女子だ。」
香民は香蘭の母を知っているような話ぶりだ。

「この、ペンダントの持ち主とはどのような繋がりが…?」
本当の真相は何も聞かされず香の国を出たが、今となっては何のために命を張ったのか、洋も知りたい気持ちが湧き出る。

「おぬしが知らなくても良い事だ。
だがまぁ、おぬしのお陰で不安が取り除かれた。気分も良いから一つだけ教えてやろう。
おぬしが弓で射た女、もしかしたらこの国を担う王女になったかも知れぬ者だ。
ハハハッ今となってはもう遅いがな。」

遂に香蘭の出生が明かされる。
虎鉄はそれを隠れた天井裏で聞き、人知れず目を見開いて驚いていた。

「そう、でしたか…。
私はこれでお役目御免と見ました私の望みはただ一つ。婚約者と共にひっそりと生きていきたい。」

「おぬしも所詮傭兵、欲が無いな。褒美をつかわす。後は口止め料として受けとっておけ。」

金一封を渡されて、事は成し遂げられ終わったかのように見せる。

「洋様…!」
走り寄って来る婚約者を抱きしめ、お互いの無事を確認した。

ああ、良かった。ひとまず洋は事を成し遂げ足早に故郷へ帰ろうと立ち上がる。

「江洋、そんなに早々帰るで無い。今夜はめでたい宴の席を設けよう。飲み食い踊りと楽しみたまえ。」
ハハハッと高々に笑い声を残して、香民は去っていった。

「よいか。今からは出された物はいっさい口にするな。毒かも知れぬ。この屋敷を出るまでは決して緊張感を解くな。」
抱きしめながら耳元で素早く婚約者に伝える。
彼女は一瞬驚きの目を向けつつ、こくんと小さく頷いた。

夜になり、大広間で宴会が執り行われる。
始めは厳粛に始まった宴だが、酒が入るにつれて飲めや踊れのどんちゃん騒ぎになり始める。

洋とその婚約者も楽しむふりをしつつ、いっさい口にはせず、神経を尖らせ周りの声に耳を傾けていた。
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