カスミソウのキモチ
「分かった。真帆が行きたいというなら、頑張ってみなさい」
「やったぁー! ありがとうお父さん!」

 思いきりハグをしたかったけど、テーブルが邪魔だったから、フリだけにしておいた。
 
「ただし二浪まで! 」
「はぁい!」
「あと、部屋探しは絶対に、お父さんも付き合うから!」
「はぁーい!」
「お父さんったら、気が早いんだからぁ。でもよかったわねぇ、真帆」
「うん!」

 まだ合格したわけじゃないし、これから受験対策をしなくちゃいけないけど。お父さん公認になったからには、頑張らなくちゃ。

 翌日、さっそく先生に予備校のことを聞きに行った。そしてすぐに入校が決まって、藝大受験に特化した実技演習をすることに。
 やっぱりみんなレベルが高くて、とてもいい刺激になる。高みを目指す仲間と一緒に頑張るのは、すごく楽しかった。

 そんなある日、予備校仲間の女の子に訊かれた。

「米田さんって、どうしてぬらりひょんが好きなの?」

 あ。もしかして、また変な子だって思われているのかな?

「んっとぉ……存在そのものが好きって言うかぁ……かわいいしぃ……」
「あ~、なるほど。確かに、ちょこんと座ってお茶飲んでたら、かわいいよね」

 え! 理解を示してくれてる! いままで、そんな人まったくいなかったのに!

「分かってくれるー?」
「うんうん。この大きな頭も、なかなかよね」
「そうそう、そうなのぉー!」
「米田さんの描くぬらりひょん、好きなんだよね。だから気になっちゃって」

 嬉しいー! ぬらりひょんの魅力を分かってくれるなんて、やっぱり藝大を目指す人は、ひと味違う!

 それから、その子――相沢つばさちゃんとは、毎日のように妖怪談義をする仲になった。つばさちゃんと出会えたのも、藝大を目指したからなんだよね。
 
 残念ながら彼女は藝大に合格できず、浪人せずに別の美大へと進学した。だけど同じ都内ということもあって、上京後もちょこちょこ会っている。

 私が現役合格できたのは、運がよかっただけ。だってやっぱり、藝大にはとんでもない天才がいるんだもん。

「総合的に考えて、このギャラリーがいいんじゃないかな」

 長岡ヒデちゃん! とっても繊細な美人画を描く天才!

「そやな、新宿駅から近いしな!」

 一佐くん! いまにも飛び立ちそうな緻密な鳥の絵を描く天才!
 それと……

「んじゃ、そこに決定」

 浅尾きゅん! 私が藝大を目指すきっかけになった、あのとんでもなく美しい風景画を描いた天才!

 彼らは全員が現役合格で、入学してすぐに仲よくなった。そしていまはみんなでグループ展をするために、会場を選定中なのだ!

「よっしゃ! そうと決まれば、このネゴシエーターISSAが交渉を」
「ヨネ、頼むわ」

 一佐くんの言葉を遮って、浅尾きゅんが言った。その横でヒデちゃんが苦笑する。

「おっけーい、任せとけぇー」
「つーことで、オレは帰る」
「待ってや浅尾っちぃー! おれの話を」
「一佐、お店で騒がないでよ」

 ……これが、いまの私の日常。ぬらりひょんが導いてくれた、とっても愛おしい毎日。

 将来どうしたいのかなんて、やっぱりまだ分からない。いまはただ、この天才たちと過ごす時間を大切にしたいの。

 米田真帆、19歳。そんな感じで、人生を楽しんでいまっす!



***おわり***
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