カスミソウのキモチ
 そもそも、好きなことをやるのに理由がいるのかなぁ。好きだから突き詰めたい。ただ、それだけなんだけど。
 まだ将来のことなんて分からないし、だからこそ好きな道に進みたい。正直に、そう言うべき?

 ……うん、そうしよう。自分の気持ちを偽らず、素直に話す。これが一番だ!

「東都藝大じゃないといけないのか?」

 さっそく夕飯のときにお父さんへ話すと、開口一番そう言われた。予想通りー!

「えっとぉ……美術大学の中でも一番難しいところだからチャレンジしてみたくってー。もちろん、何年も浪人するのは無理だと思っているからー滑り止めとして県内の大学は受けるんだけどぉ……」
「美術大学を出て、そのあとのことは? 就職とか、どう考えているんだ?」

 やっぱり突っ込まれた。よし、頑張って伝えるぞ。

「まだ高1だし、将来どういう仕事に就きたいのかとか、そういうのはまだ分からないんだけどー。とにかく絵を描きたい、妖怪を描きたい、ぬらりひょんを描きたい! ってことだけは、絶対に変わらなくてぇ……だからレベルの高いところで学んでみたいのー」

 もっともっと、絵が上手くなりたい。たくさん学んで、表現の幅を広げたい。だから私は、藝大に行きたい! そういう気持ちを、そのまま素直に伝えてみた。
 
「……東京へ行くということは、家を出るってことだろう?」
「うん」
「ひとり暮しをするってことだろう?」
「そうなるけどぉ……」
 
 お父さんは、口を真一文字に結んで黙ってしまった。……なんか、怒っているのかな?

「お父さんったらー寂しいんでしょー」

 横からお母さんに突っ込まれて、お父さんはさらに険しい表情になる。
 そっか。お父さん、寂しいんだ。そうだよね。ずっと一緒に暮らしてきた家族が、いなくなっちゃうんだもんね。

「心配なんだよ。東京でひとり暮らしなんて、いろいろ物騒じゃないかっ!」
「そうねぇーでも真帆なら大丈夫よぉ。あなたに似て、とぉっても真面目でしっかり者なんだからぁ」
「そ……そうかもしれないけど!」

 さすが、お母さん。お父さんの扱い方を心得ているなぁ。
 そういえばお父さんって、結構心配性だったんだ。お兄ちゃんに対してはそうでもないけど、私にはちょっぴり過保護なところがある。
 
「どっちにしたって、真帆もいつかは親元を離れていくのよぉー?」
「でも、大学入学って言ったらあと3年後だろう。もうすぐだよ?」
「3年も5年も10年も、体感は同じですよぉー。真帆が挑戦したいって言っているんだからー応援してあげるのが親の務めだと思うなぁ」

 ぐうの音も出ないといった表情で、お父さんが小さく唸った。やっぱりお母さんは、強い味方だぁ。
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