カスミソウのキモチ
「桔平」
「ん?」
「浅尾、桔平。芸術高校1年」

 それだけ言って、さっさとレジへ行ってしまった。
 ……いまの、自己紹介のつもりだよな。多分そうだよな。案外、律儀?

 浅尾桔平かぁ。見た目に反して、古風でかっこいい名前じゃん。
 それにしてもイケボだったな。佇まいも独特だし、なんだかめちゃくちゃ気になる存在だ。

 名前を教えてくれたってことは、話しかけてもいいんだよな。嫌だったら無視するはずだし。
 よし。次に会ったときは、もう少し会話が続くように頑張ってみるか。

 そのチャンスがきたのは、3日後。
 バイトを終えて帰ろうとすると、浅尾桔平がちょうど会計を終えて出ていく姿を見かけた。

「おーい、桔平!」

 慌てて店を出て、その背中に呼びかける。あ、つい呼び捨てにしちゃった。まぁいっか。

 早足で歩いていた桔平はぴたりと立ち止まり、振り返った。なんか、動きがえらいゆったりしているな。

「……楠本翔流」
「覚えてくれてた? 翔流でいいよ、桔平。1年ならタメだし。あ、メトロ乗るの?」

 桔平が、こくりと頷く。

「一緒、一緒。俺は麻布十番だけど、桔平は?」
「白金」
「え、隣駅じゃん。一緒に帰ろうぜー」

 桔平が、またこくりと頷く。
 一見とっつきにくそうだけど、なんかいいヤツっぽくね? さっきは早足だったのに、ゆっくりになったし。なんか嬉しい。

「今日もやっぱり、茎わかめとチュッパチャプス買ったの?」

 また無言で頷く桔平。やっぱり無口なんだな。
 でもちゃんと反応してくれるし、会話自体は嫌じゃなさそうだ。

 メトロの駅は、コンビニのすぐ近く。ホームに着いてすぐ電車がきたので、桔平と一緒に乗り込んだ。

 金曜の夜だから、そこそこ人は多い。でもラッキーなことに座席は空いていて、ふたり並んで座れた。
 すると、桔平がスラックスのポケットからチュッパチャプスを取り出した。

「なぁ。なんでいつも、茎わかめとチュッパチャプス?」

 めちゃくちゃ気になっていたことを訊くと、桔平はチュッパチャプスを舐めながら、俺の顔をじっと見た。凝視するのは、クセなのか?

 そしてしばらくして、ひと言。

「夕飯」

 うーん、間が独特だ。
 ていうか、これが夕飯って。どういうこと?

「夕飯、これしか食わないの? 家に帰って、ちゃんと食うんじゃないの?」
「茎わかめは低カロリーかつ食物繊維が葉わかめの約2倍と豊富で腸内環境の改善やコレステロール排出そしてよく噛むことによるストレス軽減や満腹感の維持に優れた食品」

 突然の早口。でも、なぜかちゃんと聞き取れる。
 ……つまり、茎わかめは健康にいいってことだよな。いや、分かるけど。そういうことじゃなくて。
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