カスミソウのキモチ
甘えんぼうの次男坊
 小さいころから、要領はよかったと思う。
 兄貴の失敗を見て学べたし、どうすれば大人たちの機嫌がよくなるかを、よーく観察していた。

「翔流は本当に、手がかからない子ねぇ」

 母さんはいつも、口癖のようにそう言っていた。

 必死に勉強をしなくても、大抵のことはすぐに理解できる。スポーツだって、それなりにこなせた。

 友だちは多いし、通知表にはいいことしか書かれていなかったし、なんの問題もない優秀な子ども。それが俺——楠本翔流の、周りからの印象だった。

 そう思われること自体、別に嫌ではない。だけど次第に、「いい子」を演じているのが、なんとなくつまらないことのように感じてきた。

 あいつと出会ったのは、そんなときだった。

「君さ、芸術高校だよね?」

 俺が話しかけると、その男子高校生は、一切表情を変えずフリーズした。

 バイト先のコンビニにいつも来る、ド派手で個性的なファッションをした、かなり目を引く男。一度、制服姿で来店したことがあったから、近くにある芸術高校の生徒だと分かった。

「いつもこの時間に来るよねー。部活でもやってんの? 俺の高校は戸山なんだけど、帰宅部だからここでバイトしてんの。あ、名前は楠本翔流ね」

 こっちは超笑顔で話しかけているのに、そいつは無表情で、ただじっと見つめてくるだけ。
 ていうか、めっちゃ見てくるな。ガン見じゃん。イケメンだし、自分に自信があるタイプか?

 あ、瞳の色がグレーだ。カラコン……? いやでも、全体的に外国に血が混ざっていそうな雰囲気でもある。背も高いし。

 おっと、ひとまずレジの仕事をするか。
 えーっと、茎わかめとチュッパチャプスのレモンスカッシュ味……いつもこれ買ってるけど、どんな組み合わせだよ。

「215円でーす」

 すると、無言でスマホの画面を見せられる。はいはい、バーコード決済ね。

 会計が終わると、そいつは茎わかめとチュッパチャプスを無造作にスラックスのポケットに入れた。そしてついにひと言も発することなく、店を出ていった。

 うーん、人見知りなのかもな。また来るだろうし、少しずつ距離を縮めていくか。

 翌日も、そいつはいつもと変わらない様子で来店した。
 そのとき俺は品出しをしていたから、今日は話しかけられないかなぁなんて思っていたら……。

「……わかめ」

 ポテトチップスを並べている俺のところへ真っすぐ向かってきて、そいつが初めて声を発した。

「え? わかめ?」
「茎わかめ……ねぇから」
「……あぁ、いつも買ってるやつね! ごめん、まだ出してなかっただけで、ここにあるよ」

 箱から茎わかめをひとつ出して手渡すと、相変わらず無表情のまま、無言で頭を下げた。
 そしてそのままレジに行こうとしたところでピタリと止まり、ゆっくり振り返る。
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