カスミソウのキモチ

「ねー、すごいでしょう。この絵を描いたのは、浅尾瑛士の息子さんなのよ」

 私が雑誌に釘付けになっていると、なぜか先生が自慢げに言った。

「浅尾瑛士ってー……教科書に載っているあの浅尾瑛士さんですかぁ?」
「そうよ。今年、東京の芸術高校へ進学して、いろいろと公募に出すようになったみたいね。とてつもない天才が現れたって、画壇は大盛り上がりなのよ」

 天才……うーん、その言葉で片付けるのは失礼な気がするなぁ。もちろん才能もあるんだろうけど、きっとすごく努力をしているはずだもん。

 写真だけでも、筆づかいの繊細さが伝わってくる。細部まで気を抜かず、魂がこもっている感じ。
 圧倒的な表現力だというのは、私でも分かる。本人と話してみたいなぁ。絶対、刺激になるよね。だけど東京なのかぁ。

「きっと彼も、藝大に進学するんでしょうねぇ。お父様も藝大出身だし」
「東都藝大ですかぁ?」
「そうよ。もしかして、米田さんも藝大志望なの?」
「まだ決めていないですけどぉ……藝大ってーとっても難しいんですよねぇー?」
「難しいわよぉ。うちの学校から現役で合格した人は、ほとんどいないと思うし」

 藝大は、二浪や三浪は当たり前だって聞いたことがある。そうまでしても入りたい大学ってことだよね。
 藝大に入れば、こんな人とたくさん出会えるのかな。

「もし藝大を目指すのであれば、おすすめの予備校を紹介するけど。受験対策するなら、早いほうがいいわよ」
「……んーまだ分からないのでー決めたら相談させてくださーい」

 その場ではこう言ったものの、藝大という場所が無性に気になりはじめていた私は、ネットでいろいろと調べまくった。

 藝大は上野にあるんだ。上野って、西郷さんだよね?
 すぐ近くに公園や美術館や博物館があるし、環境はよさそう。

 わぁ、藝祭なんてあるんだ。すごい、お御輿だ。えー、これ1年生が自分たちで作ったの? ものすごいクオリティ。
 お御輿を担いでパレードをして、上野公園でパフォーマンスを披露する……面白そうー!

 模擬店もたくさんある! いいなぁ。お店をやるのって、ちょっと憧れなんだよねぇー。私がやるなら、コーヒースタンドかなぁ。コメダ珈琲ならぬ、ヨネダ珈琲! なんちゃってー。

 ていうか、ものすごく藝大へ行きたくなってきた。私でも行けるのかな?

 その前に、藝大に入るなら東京でひとり暮らしになるわけだから、ちゃんと両親に相談しないといけないよね。

 お兄ちゃんは国立の名古屋大に家から通っているし、自分でアルバイトもしているから、親の負担はそんなにないと思うけど……私のひとり暮らし、許してもらえるかなぁ。
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