君の記憶…
「いや…合ってるよ。絢音ちゃんの言う通りだ」
「ごめんなさい…触れちゃいけなかったですね…」
「謝る事じゃないさ。」
快斗は小さく首を振り、缶ビールを煽った。
冷たい液体が喉を通り過ぎ、冷静さを取り戻す。
「ありがとうございます」
絢音は小さく笑うと受け取った缶のプルタブを開けた。
プシュッと小粋な音を立てた缶に俺は耳を澄ませた。
「彼女さんと…どうして別れたんですか?聞かない方が良いなら聞きませんが…」
「…結婚まで目前に控えた日にね。部屋に帰ってきて彼氏がいるって告げられたよ……」
小さく言葉を紡ぐと絢音は少し重たそうに口を開いた。
「その彼女さん…きっと彼氏なんて居ないと思いますよ…」
意外な言葉に俺は缶に口を着けたまま、固まった。
今まで他の奴には話した事なんて無かったからまさかこんな発言が出るなんて思わなかった。
「…どうして?」
「結婚まで決めた相手をまさかそんな理由で振るなんて思えませんもん…私は。」
何か確信が有るような表情で俺を見る絢音は…
琉依をイメージさせた。
こんな時に琉依を思い出すなんて不謹慎だが、俺を真っ直ぐ見つめる目は琉依その物にすら見えた。
「…そう…かな…」
「私は…何か理由が有ると思いますよ。」
その絢音の言葉は何故か俺の耳に焼き付いて離れなかった。


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