1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
堂々と結都と向き合おうと決めた紗彩は、明るい気持ちでゆっくりと土手を上がっていった。
今夜は温かいものを作って彼を迎えよう。
それから、たくさん話しをしよう。そんな想いが心からあふれそうだった。
「見つけた」
紗彩に川風よりも冷たい視線が突き刺さった。橋のたもとに香澄が立っていたのだ。
「人が多いのねえ。こんなお祭り騒ぎのどこが面白いのかしら」
「消防出初式をそんなふうに言わないでください」
「ふうん、言うじゃない。まあいいわ。あなたを探してたのよ」
会いたくない人に憎々し気に言われても、探されても困る。
「ここに来れば、あなたに会えると思っていたわ」
自分を嫌っているはずの香澄がわざわざ訪ねてきた理由がわからないし、紗彩と話すまでは帰りそうにない。
紗彩は川風で冷え切っているし、毛皮のコートを着ているとはいえ彼女も寒そうだ。
とりあえず暖をとりたくて、一番近くにあった古めかしい喫茶店に入る。
店内には何組かの客がいたが、出初式の帰りなのかスマートフォンの写真を見せあったりして楽しそうだ。
引きつった顔をしたふたりの女性は、彼らから見たら場違いなことだろう。
コーヒーを注文して、香澄と向き合う。
いつかカフェで別れて以来だが、あの日に感じた華やかな美しさは感じられなかった。
たしかにブランド物や宝石を身につけてはいるが、どこか廃れた印象だ。