1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「あなた、告げ口したでしょ」
「え?」
「おかげで散々よ」
香澄は思いがけないことを口にした。去年、彼女とふたりで会った日になにがあったか、あれこれと愚痴り始めたのだ。
「あの日の夜遅くに結都さんが大河内家に来たのよ。すごく怒ってて、二度と妻に会うなって」
そういえばあの日、車で出かけていったのを覚えているが、東京まで行ったのだろうか。
「おかげで父と母にものすごく叱られて、お小遣いはもらえないし自由に出かけられないし最悪よ」
自分で蒔いた種だろうに、紗彩にその責任があるというのだろうか。
それに紗彩よりも年上の人が、お小遣いをもらっているというのは信じられない。
この人は親に寄生して生きているのだろうかとあきれるが、自分とは住んでいる世界が違うのだと紗彩はため息をついた。
「聞いてる」
「はあ」
温かいコーヒーのおかげで体がホカホカしてきた紗彩は、これ以上彼女の話しを聞かされるのが我慢できなくなってきた。
子どものことを話してくれなかった結都を責めてしまった原因は、目の前の香澄だ。
あの日のショックで結都を避けてしまったというのに、なんて幸せな人だろう。
「あなた、結都さんと別れてくれない」
早く帰りたいのにと思っていたら、空耳かと思う言葉が聞こえてきた。