1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
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病室の外では、やんでいた雨が降り出していた。
そろそろ梅雨明けが近いのに、うっとうしい空模様だ。
(まるで今の私の心のよう)
あの日から十日が経つ。
母の手術は無事終わり、そのまま足立病院へ入院した。それに急性膵炎をこじらせていて、あわやという症状だったらしい。
痛々しいギブス姿だが、投与された薬が効いてやっと会話できるくらいに回復してきたところだ。
先の見えない、どんよりとした気分。まさに紗彩の心は梅雨空だ。
「紗彩」
小さな声が聞こえた。
「お母さん、目が覚めた」
「ウトウトしてたのね。ごめんなさい、来てくれてたのに」
少し頬がこけてしまって、いつもより老けて見える気がする。
病室では化粧ができないので、余計にかもしれない。
入院したころにくらべたら病状に合わせた食事はきちんと食べられるし、会話もしっかりしている。
それでも気力はもどらないのか、表情は暗いままだ。
紗彩はまだ、結都との結婚について母になにも話していない。
政略結婚で会社を助けてもらうなんて、以前に山岡からの同じような見合い話しを断った自分がどう説明すればいいのだろう。
ただでさえ弱っている母に、これ以上の負担を与えてはとためらわれた。
「そういえばお母さん、倒れた日にどなたと電話していたの? なにか相手の方にお伝えした方がいいかな?」
あの日、母は受話器を握りしめて倒れていた。
会話中だったのか話が終わっていたのか、紗彩の記憶は曖昧なので相手に失礼があっては申し訳ないと思っていたのだ。
「あの時は原牧場のご主人から、近く廃業なさるって電話をいただいていたのよ」
電話の話をしたら、母は眉をしかめた。
「息子さんが跡を継がないそうだし、飼料の高騰で採算が合わないらしくて」