1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています
「お帰り」
ハッと声のした方を向いたら、廊下の壁にもたれて結都が立っている。
今日は休みの日だったから家にいたようだ。
香澄に会ってから気もそぞろになっていた紗彩は、彼の勤務ローテーションをすっかり忘れていた。
「た、ただいま」
「今日は早かったんだね」
皮肉っぽい言い方だ。このところ結都を避けるために、紗彩がわざと遅く帰っていたと気がついてたのだろうか。
「チョッと疲れちゃって」
「風邪か」
結都が近寄ってきて、紗彩の額に手をあてる。
「熱はなさそうだな」
「大丈夫ですから!」
思わずその手を払いのけてしまった。
紗彩らしくないとはいえ、その力は結都にとってそよ風くらいのものだろう。
「ごめんなさい」
どうして謝ってしまうのだろうと、紗彩は自分自身が嫌になる。
香澄から聞いた話が本当なら、謝るのは真実を話していない結都のはずだ。
「紗彩、近ごろ俺を避けていただろう。理由を聞いてもいいか?」
玄関先でする話でもないが、今の紗彩は冷静でいる自信がない。
だが、香澄に言われたことを黙っているなんてできないと思った。
「今日、大河内香澄さんが会社に尋ねてみえました」
「へえ、あの人がわざわざ」
皮肉ぽっく答える結都の緊張感のない態度を見て、押さえていた感情がこみあげてくる。
「子どものこと、聞きました」
「えっ」
「お父様と後継ぎのことを約束していたってことも」
普段は無表情な結都が驚いているのが証拠だろう。
黙り込んだ結都を残して、紗彩はそのまま二階の自室にかけ上がった。
部屋に飛び込むと、ドアに鍵をかける。