1日限りのニセ恋人のはずが、精鋭消防士と契約婚!?情熱的な愛で蕩かされています



「はい。父が亡くなってから、ずっと山岡さんの担当でした」
「言葉巧みに取引価格を叩いていたんだろう」
「まさか⁉」
「差額はおそらく………」

結都が口にしなくてもわかった。すべて山岡が自分のものにしていたのだろう。
おそらく二重帳簿もどこかにあるはずだ。
山岡が不正に手を染めていたとはまだ信じられないが、こちらの不手際で廃業にまで追いこんでしまったのかと、紗彩は暗い気持ちになる。

「大丈夫だ。父の指示で、原牧場は白川の子会社が買い取った。梶谷牧場と提携して再出発することになったよ」

「よかった」

白川ホールディングスの援助はここまで行き届いていたのだと、紗彩は正親に対して感謝の気持ちでいっぱいだ。

「結都さん」
「やっと俺を見てくれた」

結都はホッとしたのか、微笑んでいる。
このまま結都の胸に飛び込んでしまえば、ふたりの関係はどうなるだろう。
なにかが変わっていくかもしれないという甘い期待が、紗彩の脳裏を横切る。
けれど、今は出初式の準備で忙しい時期だ。結都をこれ以上煩わせてはいけないと気持ちにブレーキをかけた。

「ありがとうございました」

ペコリと頭を下げると、結都から距離をとることを選んでしまった。
まだ話し足りなさそうな結都を残して、紗彩は自室に戻っていった。




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